第三章 メルキド侵攻 第五話
「おいおい。司令官閣下がそう言っているんだ。お前ら、もっとやる気を出したらどうだ。ワイバニアを追い返せば、生きて帰れるんだからな」
巨兵隊長のボストン・クーラーは言った。戦闘経験豊かで豪放磊落な巨兵隊長の言葉に少しだけ重苦しい雰囲気が和らいだ。
「ありがとう。隊長」
マッサリアは信頼する隊長に礼を言った。
「いえ、気にせんでください。おそらく、この要塞は一日も持ちますまい。いや、この要塞だけじゃない。デミアン、メルヒェン、他の要塞もです。我々の兵力は五要塞合わせて一万五千。敵は十一万。最初から勝負は見えています」
マッサリアはクーラーの言葉を聞き、表情を曇らせた。
「だが、勝たせてばかりでは面白くない。せいぜい歯向かって見せましょうや。司令官」
マッサリアはクーラーを見た。すでにこの要塞で死ぬ覚悟を決めている目だった。だが、クーラーには悲壮さは見られなかった。戦う覚悟を決めること。死兵と言うのは子のこと言うのだろう。若き司令官は目を閉じると覚悟を決めた。
「大型翼竜来まぁす! 数、およそ三〇〇!」
ワイバニアのお家芸、落石攻撃が始まった。見張りの報告の数分後、空から岩の雨が降ってきた。巨岩は要塞の櫓や壁など、石造りの構造物を次々に破壊していった。
「壁に寄るんだ。そうすれば、落石から避けられる。石兵は格納庫から出すな!」
マッサリアは兵士達に命じた。攻撃が早く、メルキド群は対空攻撃が間に合わなかった。要塞の中はたちまちがれきの山と化した。
「ほほ。ようし、投石機用意。目の前の厄介な壁も壊してしまえ」
グレゴールは敵が無抵抗であるのを見るや、すぐさま地上からの投石攻撃に切り替えた。