第三章 メルキド侵攻 第四話
「聞き分けがいいのはよいことじゃて。ほほ……」
ワイバニア軍の長老は震えるザビーネを見下ろした。
「しかし、グレゴール翁。攻め方が決まりませんと、我々とて、どう動いたら良いか、分かりかねます。ご指示を賜りたいのですが」
第八軍団長のゲオルグ・ヒッパーが言った。現在彼は四七歳。十二軍団長の中で、グレゴールに次ぐ戦歴を持つ指揮官だった。年の割には若く見え、短く刈った銀髪と穏やかな風貌が、周囲にごく自然と安心感を与えていた。
「やれやれ、少しはこの老いぼれにゆっくり考えさせんか。ふむ。ちと、興はないが、ワイバニアの戦と言うものをメルキドに見せてやるかの」
グレゴールは配下の龍騎兵大隊と第八、第十一軍団の龍騎兵大隊に大型翼竜による落石攻撃を命じた。
一方、カルデーニオ要塞守備軍はワイバニアの恐怖に襲われていた。
「おい、なんだよ。あれ。三個軍団はいるぞ」
「俺たちの十倍じゃないか。勝てる訳がない……」
敗北。その先にある死。カルデーニオ要塞の守備兵は絶望感に包まれていた。
「まだだ!」
要塞の中で若々しい声が響いた。カルデーニオ要塞司令官マッサリアであった。年齢は二三歳とメルキド軍の上級指揮官の中で最年少である彼は、三月に要塞に赴任したばかりだった。絶望的な状況の中、マッサリアは努めて力強く、明るい声を出して兵士を鼓舞した。
「相手は確かに一〇倍だがこちらは難攻不落のカルデーニオ要塞だ。三個軍団くらい持ちこたえてやろう。逆に押し返すんだ!」
青二才の青臭い演説を聞いていられない。兵士達は士気が上がるどころか逆にため息をついてその場にへたり込んでしまった。