第二章 戦乱への序曲 第四十七話
「アルレスハイム公は、明日にでもシンベリンに到着するとのことです」
メアリはヒーリーに首尾を報告した。副軍団長のアレックスがアンジェラの身柄を引き取りに行くとのことだった。ヒーリーはメアリの仕事の早さに改めて感嘆のため息をもらした。
「さすがだね。メアリ」
「参謀長です。軍団長。同期とはいえ、公私の別はつけないと」
メアリは鋭い眼鏡をきらめかせ、ヒーリーに言った。
「本当に厳しいね。メアリ姉。わたしもメアリ姉のことを見習おうかしら」
ポーラが紅茶をすすって言った。ヒーリーは顔を青くした。軍ではメアリ、白ではポーラに厳しくされたら、それこそ心休まる場がなくなる。ヒーリーはポーラに懇願した。
「頼む。ポーラ! これ以上厳しくしないでくれ!」
「何よ。冗談に決まってるじゃない。バカヒーリー」
しれっと言うと、ポーラは紅茶を飲んだ。
「やれやれ、この国の女性は本当に厳しいな。ヒーリーも少しは強いところを見せないとね」
高みの見物をしゃれこみ、ヒーリーの姿を見て楽しんでいたラグだったが、そんな彼も、一人の女性にはかなわなかった。
「お師匠様も、もう少ししゃんとして欲しいですね。研究室の片付け、いつになったらしてくれるんですか?」
「いや、あれはね。メル。高度な計算に基づいてだね……」
「いくらわたしが片付けても足の踏み場のなくなる研究室がですか?」
五七六歳になる不老不死の人工生命体も、女性には弱いのか。紅茶の香りを楽しみながらヒーリーは自分を棚にあげて思った。