第二章 戦乱への序曲 第四十六話
「そいつは君も難儀な役割を押し付けられたね。ヒーリー」
「そうだろう、ラグ。あのタヌキ親父め、とっとと隠居すればいいのに」
庭園の片隅で銃声がこだました。魔術銃の訓練とメンテナンスのために、ヒーリーは週一回ラグのもとに来ることをメアリに許されている。ヒーリーにとっては大事なリラックスの時間でもあり、銃の特性と戦い方を知るためにも大切な時間だった。
「これはまた、腕を上げたね。ヒーリー。全部ど真ん中を撃ち抜いているじゃないか」
ラグお手製の的に、ヒーリーは全弾真ん中を打ち抜いていた。以前は何発かそれることもあったが、ヒーリーの射撃の腕は日増しに上がっていた。
「ラグも魔術銃を持っていたのか」
ヒーリーはふと、ラグの持っている魔術銃に視線を移した。
「このペルセウスはカストルとポルックスの前に作った試作品だ。君に作ったものには及ばないよ」
この日はラグも一緒に魔術銃の練習をしていた。ラグの持つ魔術銃、ペルセウスはヒーリーの持つカストルとポルックスに比べて二まわりほど大きく、連射性能と取り回しの良さの点で劣っていたが、口径はヒーリーのものよりも大きく、銃身長も長いため命中精度に優れており、暗殺者を撃退出来たのもこの銃によるところが大きかった。
「ヒーリー! お茶もってきたわよ! 休憩にしよう!」
ヒーリーが練習を一通り終えたとき、お茶を持ったポーラがメアリとともにやってきた。
「お目付役が来たようだよ。ヒーリー」
「仕方ないさ。こうでもしないと、君のところに来られないからね」
ラグとヒーリーは小声でしゃべりあった。メルとポーラがテーブルと椅子を出し、五人はしばらくの休憩をとった。