第二章 戦乱への序曲 第四十五話
「それほど言うのなら、ここはお前に任せる」
ジェイムズが間髪入れずに言った。
「は?」
「そうだな。ここはヒーリーに任せた方が安心だ」
「お兄様。よろしくお願いしますわ」
ウィリアム、マーガレットら諸将もすぐに頷いた。しまった。余計なことを口にしてしまった。まさか、自分がこれを言うのを待っていたのではあるまいか。ヒーリーは父の奸計にまたもはめられてしまった。
「しかし、私には、まだ軍団の練成が……」
「頼んだよ。ヒーリー。私もこういうことは苦手なのでね。助かるよ」
反論するヒーリーにマクベスがやんわりととどめを刺した。なかなかどうして、こんな面倒ごとばかりおしつけられるものだ。ヒーリーは自分の要領の悪さを呪った。
「わかりました。誠心誠意やらせていただきます」
ヒーリーは不満そうに翡翠色の髪をかいた。
会議が終わり、諸将に続いてヒーリーが勢いよく扉を開けて廊下に出た。会議が終わるのを待っていたメアリはヒーリーに尋ねた。
「会議はどうでしたか?」
「どうもこうも、面倒事を任せられてしまったよ。アンジェラ・フォン・アルレスハイムの一切を俺に委ねるだってさ」
メアリもまた驚いた。
「とにかく、ハムレット砦から、アルレスハイム公を連れてこなければならないな。手配を頼む。参謀長」
「はい……どちらへ?」
廊下の分かれ道にきて、執務室とは別方向に行こうとするヒーリーに、メアリは尋ねた。
「俺の訓練。大丈夫。サボりはしないよ。君もくればいいさ。場所は分かるだろう?」
「宮廷魔術師殿のところですね」
「そういうこと」
ヒーリーは心底だるそうに大きな声で言うと、廊下の向こうに歩いていった。