第二章 戦乱への序曲 第四十四話
「遅いぞ。ヒーリー」
ジェイムズは遅れてきた息子を叱った。時間は会議の開始時刻よりも20分も前であり、ヒーリーは父の理不尽さに反論した。
「何を言ってるんですか。皆が早すぎるんですよ。まだ開始時刻まで時間があるというのに」
「それだけ、事態が大事だということじゃ。さっさと席につかんかい。ヒーリー坊」
第一軍団長のフランシス・ピットが言った。40年近く、国の軍事の柱石にいる存在に言われては、ヒーリーも形無しである。ヒーリーは苦笑しながら着席した。
「ワイバニアの第七軍団長が亡命とは・・・・・・新皇帝が即位し、国内の軍事、内政に今は力をいれなければならないときでは・・・・・・」
王太子エリクが言った。アレクサンダーの崩御とジギスムントの即位はすでにフォレスタルにも伝わっており、新体制への移行による混乱を治めなければならないと言う点で、エリクの疑問は正しかった。
「恐らく、それが問題なのでしょう。密偵からの報告によれば、皇帝の死には不可解な点が多いということです。彼女はその秘密をつかんでいるがために命を狙われていると思われます」
マクベスが言った。
「それで・・・・・・どうする?わしらにとっては、ワイバニア再侵攻の口実を与えてしまうかも知れんぞ?」
ピットが周囲に目配せしていった。フォレスタルは一個軍団を新設したとはいえ、兵力比は2:1。勝てる相手ではなかった。
「そこまで、深刻な事態にはならないと思いますよ」
ヒーリーが言った。
「それほどのネタを持っているならば、ワイバニアは彼女を秘密裏に消そうとするでしょう。ですが、彼女は今、フォレスタルにいる。失敗したと見るのが妥当でしょう。それに、皇帝崩御の真相と、優れた将軍が労せずに手に入る。我々にとっては一石二鳥でしょう」