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第二章 戦乱への序曲 第四十二話

皇帝の居宮、白晶宮の龍聖の間、ジギスムントは右元帥のシモーヌに言った。


「アルレスハイムを取り逃がしたようだな」


「わたしとしたことが、少し甘く見ていたみたいね。でも、国境で網をはれば、いずれつかまる。そのときに始末すれば良いこと。けど、大丈夫? 軍団長を二人も失って、今後の計画に支障が出るのではなくて?」 


「何、軍団長の二人くらい、いくらでも替えが聞くさ。それより、真相を知る者は何人たりとも生かしておくな。いいな」


「ええ」


龍聖の間の奥、玉座の柱の奥で二人の話を聞く影があった。影は二人に気取られぬよう気配を消すと、音もなく闇に消えた。


ベリリヒンゲンを出て二週間後、アンジェラはワイバニア、フォレスタル国境の街、ヘルマンにたどり着いた。ここを抜けると、オセロー平原からフォレスタル王国に入れる。気を抜けないとは言え、目的の半分を達成したことにアンジェラは少し安堵した。昼に休憩をとり、夜の闇にまぎれて脱出しよう。アンジェラは街の雑踏の中に身を潜めた。


ヨハネスの死から二週間あまり、大々的に創作の網を広げられているかと思われたが、予想に反し、アンジェラの手配はワイバニア全土に及んでいなかった。隠密裏にアンジェラの口を封じたかったのだろう。アンジェラは一応、身の安全は保障された。


夜の闇が支配し、人々が寝静まる刻限、アンジェラはヘルマンの街を疾走した。夜のうちにヘルマンを出るまでが勝負だった。アンジェラがヘルマンを出る寸前、アンジェラは刺客に襲われた。建物の陰から、屋根から飛び出した刺客の数は三〇人。アンジェラ一人ではとうてい、勝ち目はなかった。剣を手にアンジェラが立ちつくしたそのとき、空から影が舞い降り、一瞬で3人を斬りたおし着地した。


「お前は……」


アンジェラは目の前の美麗な金髪と剣技に目を奪われた。


「ハイネ!」 


ハイネは振り返らずに愛騎の名を呼んだ。


「レイヴン!」 


紅の鎧を身にまとったエメラルド色の翼竜が急降下して火炎を吐き、暗殺者の一団を炎の渦にのみこんだ。


暗殺者たちは、空からの来襲にたじろいだが、すぐに態勢を立て直すと、ハイネとアンジェラに向かって襲いかかった。ハイネは驚くことも退くこともせず、剣をさやに納めて、暗殺者に背を向けた。


「終わりだ。下郎ども。冥府で泣いて盟友に詫びるがいい」


ハイネがいい終えたその時、矢の雨が暗殺者に降り注いだ。その狙いは正確に暗殺者を射抜き、ヘルマンの街の建物に傷一つつけることはなかった。第一軍団が得意とし、しかも第一軍団にしかなし得ないとされる龍将三十六陣の一つ、”銀の雨”だった。


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