第二章 戦乱への序曲 第四十一話
アンジェラは身支度を整え、官舎を出た。夜のベリリヒンゲンの闇は深く、アンジェラにとって、姿を隠すのに都合が良いと思われたが、それはアンジェラの口を封じようとする側にも都合が良かった。アンジェラは官舎を出てすぐに刺客に襲われた。
上下左右から襲い来る刺客をひとり、また一人とアンジェラは倒していったが、一人では限界がある。アンジェラはたちまち窮地に陥った。
「こっちだよ!」
路地から手が伸び、アンジェラの腕をつかんでさらなる闇に引きずり込んだ。暗殺者達は路地の終わりまで先回りしたが、アンジェラ達の姿はなかった。
そのころ、アンジェラはベリリヒンゲンの地下を流れる水路の中にいた。飲料水を取水するためにベリリヒンゲン地下に張り巡らされたこの水路の中をアンジェラは手を引かれ歩いていた。
「あなたは……?」
「あたしゃ、ただの酒場のおかみだよ。ヨハネスはあたしの酒場の常連でね。あの子に頼まれたんだよ」
そう言うと、酒場の女主人はアンジェラに銀貨を手渡した。アンジェラが銀貨に明かりをかざすと、「アンジェラを頼む」と言う、ヨハネスのメッセージが書かれていた。
「まったく、首をつっこむなと言ったんだがねぇ。少し遅すぎたよ。それにしても、いい奴が死んじまったもんだよ。まったく」
地下水路の出口で、おかみさんはアンジェラに旅に必要な用意を手渡した。水路の外は空が白みかけており、太陽の光がさし始めていた。
「ヨハネスには悪いけど、あたしが力になれるのはここまでだ。達者で暮らしな」
アンジェラは無言で礼をすると、草原の中に消えていった。