第二章 戦乱への序曲 第三十八話
ヨハネスが襲撃を受けている路地からそう遠くない場所で、アンジェラはヨハネスを待っていた。普段の軍服や私服とは全く異なる白のドレス姿は通りの人々の視線を釘付けにしていた。
「ヨハネスめ。ここまでわたしを待たせるとはどういうつもりだ」
アンジェラは腕を組んで未だ来ぬ相手を待った。たまには、女らしい格好を見せてやろうと思ったのに。アンジェラはヨハネスの反応を楽しみに時を待った。
「かぁっ!」
ヨハネスは暗殺者の一人を斬り伏せた。息は荒れ、肩は揺れていた。敵はあと二人、何とか倒せる。ヨハネスは目の前の一人に狙いを定めると突進した。そのとき、ヨハネスの背後から暗殺者が斬り掛かった。ヨハネスはすぐさま剣の持ち手を変え、暗殺者の胸に突き刺したが、ほんのわずかに隙が生じた。ヨハネスの目の前にいた暗殺者は距離を詰めるとヨハネスの腹にナイフを刺した。
「ぐっ……!」
ヨハネスは口から血を吐きながら腰にマウントしてあったハンドナイフを暗殺者の心臓にゆっくりと、そして最後の力を込めて突き立てると、ヨハネスを刺した暗殺者はそのまま地面に崩れ落ちた。
「あとは、……一人!」
ヨハネスは路地の壁に背中を向けると、暗殺者を壁に叩き付けた。
「ぐっ!」
衝撃はヨハネスにも伝わり、口からさらに血が漏れた。
「さぁ、言え! 誰が、僕を……っ!?」
暗殺者は返礼とばかりにナイフをヨハネスの胸に刺した。ヨハネスは剣の柄をひねると、暗殺者にさらなる苦痛を与えた。
「最後のチャンスだ。お前も、……僕も助からない。……言うんだ」
二本めのナイフは肺に刺さったのか、ヨハネスの声から空気の漏れる音が聞こえた。暗殺者はヨハネスに黒幕の名を言うとこと切れた。
「そうか……」
立つ力さえ失ったヨハネスは、壁を背に地面にくずれおち、座り込んだ。断続的な息と、血を吐きながら、ヨハネスは胸から龍の眼を取り出した。