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第二章 戦乱への序曲 第三十四話

翌日、皇太子ジギスムントの名において、ワイバニア皇帝アレクサンダーの崩御が通達された。ワイバニアの民は内政、外交、軍事に多大な影響を与えた英雄の死を悼んだ。


さらに皇太子ジギスムントは三日間の服喪ののち、直ちにワイバニア皇帝に即位すると宣言した。このスピードは極めて異例なもので、国内外に衝撃を与えた。


「妙だな……」


ワイバニア第三軍団長、ヨハネス・フォン・ハイデルベルグが第七軍団長アンジェラ・フォン・アルレスハイムの官舎で言った。上級貴族出身であるアンジェラの官舎は、アンジェラの出自には不釣り合いなほど質素だった。よく整理され、掃除の行き届いた部屋には女性らしさが幾分感じられたが、それ以外にはまるで生活色もなく、ヨハネスは貴族の部屋であるばかりか、女性の部屋であることにすら、疑問を抱くほどだった。


「何がだ?」


アンジェラはヨハネスの前に紅茶を置いた。


「陛下の死についてだよ。不自然すぎる」


「だが、急病による病死だろう。あながち不自然とも言い切れまい」


ヨハネスの向かいに腰掛けたアンジェラは言った。白いブラウスに灰色のパンツ。飾り気のない服に身を包んではいたが、その立ち居振る舞いは、十分にアンジェラの美しさを引き出していた。


「それだけじゃない。今回の皇太子の手際の早さは異例だよ。フォレスタルの前例はあるが、それほど事態は切迫していない。フォレスタルもメルキドも独力でワイバニアに侵攻するだけの力は無い。ゆっくりと皇帝に即位しても問題はないさ」


「だが、まだ推論にすぎない。めったなことを口にしていると、お前の立場が危うくなるぞ」


アンジェラは腕を組んだ。軍団長にも、国民にも、皇帝の死は急病死としか知らされていない。怪しい部分は数多くある。だが、確かな証拠は何一つない。疑念を感じながらも、表立って動くことはできなかった。


「すまないな。このことは忘れてくれ」


ヨハネスはそう言うと、席を立った。アンジェラはヨハネスを玄関まで見送った。ヨハネスは玄関の扉を開ける前にふと立ち止まり、アンジェラの方に振り返った。


「どうした?」


アンジェラはヨハネスに尋ねた。


「仮面。どうして取らないんだ?」


「傷を負った顔を人前にさらしたくないだけだ」


「僕と君しか部屋にいないのにかい?」


ヨハネスは眼鏡を上げると、おどけた笑顔を浮かべた。


「当たり前だ。お前とは恋人でも何でもないのだからな。さぁ、もう帰れ! 私は忙しいんだ」


アンジェラは慌てて扉の向こうにヨハネスを追い出した。ヨハネスはばつが悪そうに頭をかいて、路地に消えた。


「仮面をはずす、か……」


扉を背にして、アンジェラは仮面を外した。顔の刀傷にふれ、アンジェラはぺたんと床に腰を落とした。こんな顔に大きな傷のある女など、誰も愛しはすまい。あのヨハネスでさえも……アンジェラは傷をかばうように顔を押さえた。

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