第二章 戦乱への序曲 第三十話
星王暦二一八三年三月十五日深夜、フォレスタル王国王都シンベリン中心部にあるフォレスタル王城は何事もなく、夜の眠りについていた。影と呼ばれるワイバニア帝国暗殺部隊は夜の闇にまぎれ、王城への侵入に成功した。狙うは王城深部にいる王族の首。暗殺部隊は音もなく衛兵を殺すと、息を殺して廊下を疾走した。三〇人の暗殺部隊は五つのグループに分かれると、それぞれの標的の場所へ向かった。
そのうちの一つのグループはヒーリーの部屋を見つけると、静かに扉を開けた。暗闇の部屋の中、六人の暗殺者はヒーリーのベッドを見つけると、鈍く光るナイフを抜いた。標的にナイフを突き刺そうとしたそのとき、甲高い大声が部屋に響いた。
「アンタ達! 何してるの?」
ポーラが部屋の明かりをつけ、侵入者を一喝した。暗殺者はポーラの命を奪うべく、彼女に襲いかかった。
「!」
ポーラが目を閉じた瞬間、部屋に六発の銃声がとどろいた。ポーラが恐る恐る目を開けると、ポーラに襲いかかった六人の暗殺者は全滅していた。
「この布団、気に入ってたんだけどなぁ……」
穴だらけになった布団から、のっそりとヒーリーが身体を出した。手には銀に輝く魔術銃が握られていた。
「ポーラ、怪我は無いか?」
「わ、私は大丈夫。それより、この人達は?」
ポーラは床に転がっている暗殺者を見た。
「あぁ……ワイバニアの刺客ってところじゃないかな?」
「大変! それなら、陛下やエリク様、マクベス様が危ないわ!」
「その心配はないんじゃないかな」
ポーラの心配をよそに、ヒーリーは少し頭をかいた。