第二章 戦乱への序曲 第十九話
星王暦二一八二年七月三日、フォレスタル第五軍団、のちに”栄光の第五軍団”と呼ばれる軍団の最初の一日はこうして終わった。
星王暦二一八二年九月一日、この日は王都シンベリンにあるフォレスタル王城にて第五軍団の正式な発足式が行なわれることになっていた。各地の軍、守備隊から集められた兵士や幹部らが一堂に会する日であり、式典のためにフォレスタル四軍団長とメルキドの特使が参加する予定だった。
午前六時三十分、寝起きの悪いヒーリーはベッドから急に飛び起きた。隣に十八歳くらいの褐色の肌をした美少女が眠っていたのである。
「な……な……な、あぁぁぁぁぁぁ?」
ヒーリーは声にならない叫び声をあげた。少女はヒーリーの大声で目を覚ましたようで、眠たそうに目をこすって背伸びをした。十八歳という年齢には不釣り合いの大きな胸が下着越しに揺れた。少女はヒーリーの姿を見つけると、ヒーリーに抱きついた。
「お久しゅうございます! ヒーリー様!」
「い、イスラ? いつの間にここに?」
「昨日の夜ですわ! ヒーリー様に一刻でも早くお会いしたくて、お部屋に入らせていただきましたの!」
ベッドに潜り込んだことを悪びれもせず、イスラはヒーリーに抱きついた。ヒーリーはイスラを引きはがそうとしたが、思ったよりもイスラの力は強く、引きはがすことが出来なかった。
「イスラ!……いつの間にこんな力を?」
「ヒーリー様の妻になるために鍛えてきたのですわ!」
「つ、妻だって?」
ヒーリーはうわずった声を上げた。そんな話なんて聞いたことがない。だいいち、自分にそのつもりはない。それにポーラが何て言うか。
「ちょっと、ヒーリー! どうしたの、さっきの声? 開けるわよ!」
ドアの向こうでポーラの声がした。年頃の男女が下着姿で抱き合っているのだ。誰であれ、あらぬ誤解をするのは目に見えていた。
「ま、待て! ポーラ! 開けるな!……うわっ?」
ポーラに開けさせないように言ったそのとき、ヒーリーの体勢が変わった。イスラは馬乗りになると、ヒーリーに顔を近づけた。
「ヒーリー様。朝のキスを……」
「もう! ヒーリー! 開けるわよ!」
イスラとヒーリーの唇の距離がわずか数センチになったとき、ヒーリーの部屋のドアが盛大な音をたてて開いた。