第二章 戦乱への序曲 第十八話
「相変わらずね。メアリ姉」
メアリによって叩きのめされ、床に放置されたヒーリーを見ながら、ポーラはメアリにお茶を出した。
「男はあれくらいしなきゃダメなのよ、ポーラ。いつまでたってもだらけてばかりなんだから。私がいる限りは、ヒーリーをサボらせるような真似はしないわ」
アレックスはヒーリーを見た。これが王子の姿だろうか。給仕や部下にたたきのめされる王族など聞いたことがない。これもヒーリーのなせるわざなのか。アレックスは奇妙な気持ちにとらわれていた。
「まぁ、これで、参謀長と副軍団長がそろったわけだ。あとは各大隊の指揮官と兵を選抜するのみだな」
ヒーリーが構想した軍団は機動力と遠距離攻撃能力に長けた編成だった。一個龍騎兵大隊、一個攻城兵大隊、一個騎兵大隊、二個弓兵大隊、二個機動歩兵大隊、一個重装歩兵大隊、司令部直衛大隊。これはフォレスタル常設軍団はじまって以来の空陸混成軍団であった。
この編成構想を一目見たメアリはすぐに了承した。
各隊長と人員の人選はヒーリーに一任されていることもあり、メアリとの共同作業で進められた。その多くは地方都市の守備隊から選抜されたが、地方都市の守備上、多くの人員を持ってくることが出来ず、大半が新兵、もしくは予備役兵で構成することになった。
「文字通り寄せ集めの軍団……だな」
軍団構成の素案を見たヒーリーは苦笑した。
「しかし、一年後には正規四軍団を凌ぐ精兵にして見せます。それまでは絶対にサボらせませんので覚悟しておいてくださいね」
メアリは眼鏡を上げた。その動きだけでヒーリーは恐れおののいてしまった。やれやれ、ラグのもとでしばらく茶飲み話もできなくなるな。ヒーリーは大切な時間がしばらくなくなるのを残念に思った。