第二章 戦乱への序曲 第十五話
「あー、もう! ヒーリーこんなところにいた! 探したんだから」
ポーラがヒーリーのもとに走ってやってきた。ポーラは周りの者に挨拶を済ますと、話を続けた。
「リードマン様カンカンだったよ。『あの二人め。あとでお灸を据えてやるわい!』って目を吊り上げてた」
指で両目をつり上げたジェスチャーをして、ポーラはヒーリーに言った。ヒーリーはおそるおそるポーラに聞いた。
「それで、ポーラの顔に免じて、許してくれる……とか?」
いたずらをしでかした子どものような上目遣いで、ヒーリーはポーラに尋ねた。ポーラは「当たり」と言わんばかりの表情で目を見開いた。
「よくわかったね! 『わたしがヒーリーにきつく言い聞かせますから、お許しください』って言ったら、喜んで納得してくださったわ!」
「なんでそこにラグは入っていないんだ?」
ヒーリーのもっともな問いに、ポーラは「あっ!」と声をもらした。ポーラはヒーリーの問いを「あはは」と笑ってはねのけると、ヒーリ−の耳をむんずとつかんだ。
「ほら! スチュアート隊長が呼んでるわよ! ついて来なさい!」
ポーラはヒーリーの耳をつかんだまま城内へ歩いていった。
「痛い痛い! ちぎれるちぎれる! ヴェル! 何してるんだ? 早く助けてくれ!」
トマスを頭の上に乗せ、頭を上下させて遊んでいたヴェルは、ヒーリーの呼びかけに飛び立とうとしたが、トマスに止められた。
「だめだよ。ヴェル、おじちゃん達の邪魔しちゃ」
高い知性を誇るエメラルドワイバーンも人の心情の細かい動きまでは理解出来ないのだろう。わずか五歳の子に止められたヴェルは小さくうなり声を上げ、訳がわからなそうに頭を地面につけた。
「痛いってば! ポーラ、もう少し優しく!」
ポーラに耳を引っ張られながらヒーリーは言った。
「ヒーリー」
ポーラはヒーリーの耳を少し強めに握った。
「何だいポーラ」
「おかえり……」
ポーラはヒーリーの方を見ずに言った。ショートカットの髪から微かに見える耳が真っ赤に染まったポーラの後ろ姿を見て、ヒーリーは優しげに微笑んだ。
「あぁ……ただいま」
ポーラにひっぱられた耳にじんじんと痛みを覚えながら、ヒーリーはそれを悪くないと感じていた。