第二章 戦乱への序曲 第十話
「では、第五軍団長に任命されたくないと、お前は言うのだな」
国王が青筋を立てながら、あくまで丁寧に言った。
「はい」
「そんな面倒臭いことやってたまるか」という意思を思いっきりこめて、ヒーリーは心底嫌そうに言った。
「では、勅命だ。ヒーリー・エル・フォレスタルを第五軍団長に任命する。これでこの件は終了だ」
国王はついに勅命を引っ張りだした。これに逆らえば、たとえ王族とて首がとぶ。ヒーリーは父の奸計についにキレた。
「汚いぞ! 勅命なんて持ち出しやがって。国王にもなって大人げないとは思わないのか!」
息子に言われて国王もまたキレた。
「大人げないのはお前だ! 毎回毎回、軍務をさぼりおって! 四の五の言わず軍司令官に就け!」
国王の怒声が厳粛な式典の場にこだました。あたりは急に水をうったように静まりかえり、奇妙な緊張感が支配していた。国王とヒーリーとの間の亀裂が徐々に生まれつつあるのを式典に出席した誰もが感じていた。
「ヒーリー……」
緊張感と静寂を解いたのは王太子エリクシルであった。エリクはヒーリーに向けて優しく話しかけた。
「少し落ち着いてくれ。ヒーリー。お前が軍務に就きたくないのも、戦争が嫌いだと言うこともわかる。だが、お前以外に新しい軍団を任せられる者はいない。それに、私はお前だからこそ、軍を預けたいと思うのだ。ヒーリー。戦争を心から嫌いなお前だからこそ、戦争のない世界を作ることが出来るのではないかと私は思うのだ」
「しかし、兄上……」
ヒーリーは兄に反論しようとしたが、途中でやめた。ヒーリーはエリクをはじめ、兄二人を尊敬していたし、自分が出来ることならヒーリーは兄の支えになりたいと考えていた。ヒーリーは翡翠色のくせっ毛をくしゃくしゃとかいた。