第二章 戦乱への序曲 第八話
星王暦二一八二年七月三日、ヒーリー・エル・フォレスタル以下ワイバニア帝国迎撃軍五〇〇〇の軍勢はフォレスタル王都シンベリンに帰還した。シンベリン市街地を経由したヒーリー軍は市民の歓迎を受けながら凱旋した。
「俺たち、こんな歓迎受けたことない」
「勝つっていいもんだよな。やっぱり」
「いまだにワイバニアに勝ったなんて信じられねぇよ」
凱旋した兵士達はこの勝利が信じられなかった。全員が必死に、へとへとになるまで戦ったとはいえ、ワイバニアに対する歴史的な圧勝である。信じられないのも無理はなかった。
「これが勝利ってものだぞ、ヴェル。いいもんだろう」
ヒーリーは隣を歩くヴェルに言った。地上を移動するとき、ヒーリーはヴェルでなく、馬に乗る。自分の背中に乗らないことをヴェルは常に不満がっていたが、今回ばかりはおとなしく、ヒーリーの隣を二本足で器用に歩いていた。ヴェルはヒーリーの呼びかけに鳴き声で返すと、大きな翼を広げ、空に飛び立った。
「あいつめ……」
ヒーリーは相棒が嬉しそうに空を飛んでいるのを見て、街の人々や自分の気持ちがヴェルに伝わっていることを知った。
三十分程ほどシンベリンの大通りを歩いた後、ヒーリーはフォレスタル王城に入城した。城ではシンベリンにヒーリーが入ったと報告を受けた国王ジェイムズ、王太子エリクシル、宰相マクベス、宮廷魔術師兼錬金術師のラグ、そしてマクベスに呼ばれたポーラがヒーリーを出迎えた。
「ただいま。ポーラ」
マクベスが言った眠たそうな表情を浮かべて、ヒーリーはポーラに言った。ポーラは周囲が見てるのも構わず、ヒーリーに抱きついた。ヒーリーはどっと湧く笑い声に気恥ずかしそうにしながら、嬉しさに泣くポーラのショートカットの髪を優しく撫で続けていた。