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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百六五話

「敵軍、至近」


「見えておる」


血相を変えてやってきた伝令に、フランシスは悠然と返した。リヒャルト・マイヤー率いるワイバニア軍二個大隊が司令部大隊めがけ、猛然と迫り来るのが見えた。乱戦状態にあっても、司令部大隊とその周辺の部隊は整然と隊列をととのえている。フランシスは後退を命じると、戦線を縮小し、防御を固めた。

 

さらにフランシスはウェルズリーの献策を取り入れ、予備兵力として温存しておいた三個中隊を投入し、マイヤーら第十二軍団の側面から攻撃を仕掛けた。


「しまった」


マイヤーはうめいた。自身の戦術が裏目に出たのだ。フランシスとウェルズリーはさらに巧妙だった。ただでさえ隊列らしい隊列を組んでいなかった第十二軍団を分断し、先鋒二個中隊を包囲したのである。このとき投入された兵力は四個中隊。倍の兵力で包囲された上、集団としての統制が取れていなかった敵二個中隊は瞬く間に壊滅した。こうして、局地戦ながら勝利を収めたフォレスタル第一軍団はさらに第十二軍団を押し戻すことに成功した。


しかし、フォレスタル軍の奮戦も長くは続かなかった。マンフレート・フリッツ・フォン・シラー率いるワイバニア軍二〇〇〇がフォレスタル軍の側背攻撃を仕掛けたのである。


フランシスの背後を守るのは、わずか三個中隊三〇〇名のみ。七倍する兵力を前に、第一軍団の後衛は総崩れになった。


“その攻めたるや雷電が如し”というのは、後世の歌物語の一節であるが、守勢に長けた指揮官であるとのシラーの評価を再考するよい証左になるであろう。ともかくシラーは立ちはだかるフォレスタル軍の精鋭を撃砕し、フランシスの司令部に迫った。その進撃速度と攻撃力はフランシスでさえ、最期を覚悟した。


「これまでか……」


司令部大隊至近まで肉薄したワイバニア三個軍団は突如その歩みを止めた。


「何故前進をやめるのですか? 敵の大将首まであとわずかではないですか!」


指差し、激昂する軍団幹部にシラーはだらしない髪をかきあげながら答えた。


「……まぁ、俺は軍団長としては新参だからな。目上の者の顔も立てなきゃならんというわけだ」


シラーが指差した先には、ワイバニア第二軍団の白い旗があった。旗があわただしく動いている。何か大きな陣形転換をしているのだろう。参謀にもそれは理解できた。


「――それに、背後から敵を討ったとあれば、我が第三軍団の名折れだ」


「軍団長は名誉のために勝利をお捨てになる、ということですか?」


「俺個人としては、な。とりあえず、ワイバニア軍人として、理由はそれで充分だ。敵の耳目に後背に引きつけることに成功した。これ以上は、ここに留まる理由はない。後退する」


敵陣に静止したワイバニア第三軍団は後退を開始した。

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