第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百六四話
「全軍、突撃! 敵は寡兵だ。突き崩せ!」
「隙を見せるな。攻めて攻めて攻めまくれ」
「他の軍団に遅れてるよ! 早くしないかい!」
ワイバニアの軍団長達は細やかな命令を下そうとはしなかった。少数の敵を倒すには自軍の数的優位を利用して力でねじ伏せるのが最良の策であると考えていたためである。
ワイバニア軍は攻め、フォレスタル軍は守る。天地創世以来、その図式が決まっていたかのように、敵味方は理想的な兵力移動と展開を行っていた。
「中位と下位軍団はとりあえず無視してもいいでしょう。やっかいなのは第二軍団です。こちらの痛いところばかりついてきますな」
「大した娘御じゃて……。敵の陣形転換の隙をついて槍兵を前進させようぞ」
マレーネが三度の手合わせでフランシスの特性を理解した様に、彼もまた、彼女の戦術を理解していた。
フランシスはワイバニア第二軍団が更なる攻撃にうつる瞬間、槍兵による突撃を仕掛けたのである。予想外の攻撃にうろたえた第二軍団先陣は死体を量産しながら後退を開始した。
「やっぱり、思う様にはいかないわね。難しいことを考えすぎてたみたい」
マレーネは傍らの副官に言った。
「次は力で押し切るわ。歩兵を前に出し、陣形を崩しなさい」
マレーネは陣形を再編すると、他の軍団と同じ様に兵力を頼みにした攻勢を開始した。フランシスのもとに、撃破された部隊の報告が入る。
ワイバニア軍の攻勢は苛烈を極めた。兵力差はそのまま武装の差につながる。援護射撃にすぎない矢もフォレスタル軍にとっては致命の一撃であった。さながらスコールのようにたたきつける矢にフォレスタル軍の精鋭達は次々と倒れていった。
またたく間に陣形はずたずたにされ、戦闘は乱戦状態に突入した。中でも目覚ましい働きをしたのは、リヒャルト・マイヤー率いるワイバニア軍第十二軍団であった。新編成の軍団であり、しかも効率的で組織的な運用ができない弱点をマイヤーをよく理解しており、彼はその弱点を逆手にとった作戦を考案し、実行したのである。
「敵は疲れている。だからこそ、兵力が少ない我々にも奴らを倒すことが出来るはずだ。さぁ、勝利は目前だ。攻撃の手を緩めるな」
マイヤーはとにかく単純な命令に終始した。「前進」「前進」「突撃」ここに、マイヤーの指揮官としての有能さが凝縮されていたといえる。指揮官の前提条件として、自軍の能力を正確に把握していることがあげられる。戦場に散った参謀長ギーゼラ・ヴァントのもと、ならず者集団である旧第十一軍団をまとめあげたマイヤーは誰よりも自軍の特性を理解していたのである。
「敵の大将首は目の前だ。討ち取って手柄を立てろ」
第十二軍団はフォレスタル第一軍団ののど元まで迫りつつあった。




