第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百六一話
ヒーリーは険しい眼でメアリをにらみつけた。それはヒーリーが今まで誰にも見せることがなかったまなざしだった。
「あなたは恐れている。仲間を失うのが怖いのよ。アンジェラも、スチュアート隊長もモルガン隊長も。今誰も死なせない様に戦っている」
メアリはヒーリーに臆すことなく続けた。
「うるさい」
「レイがやられたから? アンジェラが傷を負ったから? あなた、お祖父様の言葉を忘れたの? 何のために苦しんだの? 何のために、皆は命をかけているの?」
メアリの言葉が容赦なくヒーリーの心に突き刺さる。彼のすべてを見透かしたかのような言葉がヒーリーにはただただ不快だった。非情になると心に決めたはずなのに、友の傷が決意を鈍らせた。誰も失いたくない。その思いがヒーリーを支配し続けていた。
「うるさい、だまれ!」
何も言い返せない。そのことがより一層ヒーリーをいらただせた。二人の間に張りつめた空気が漂う。それを破ったのは伝令からの報告だった。
「敵第一軍団、密集隊形で尚も前進中! このままでは、司令部護衛中隊に達します!」
ハイネ率いるワイバニア第一軍団は左右から攻撃を受けながらもヒーリーの本陣に向けてなおも前進を続けていた。
「両翼の攻撃を厚くしろ。決して、手を緩めるな。敵の攻撃は、もう少しで限界に達するはずだ」
ヒーリーは伝令に命じると敵軍に目を向けた。ワイバニアの真紅の旗印は目に見えて近くなっている。自軍が優勢ではあるが、楽観できない状況だった。
「軍団長、龍騎兵による徹底した航空攻撃を具申します。たとえ龍騎兵の大半を失ったとしても、敵第一軍団を殲滅できれば、我々の勝ちです」
ヒーリーはメアリの意見にすぐに答えようとしなかった。
「ヒーリー!」
「両翼の攻撃を維持だ。わかったな、参謀長」
「はい……」
メアリはそれ以上言葉を重ねようとしなかった。悲しげに目を伏せると、ヒーリーの後ろに控えた。