第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百六十話
「お呼びですか。軍団長」
「龍騎兵大隊に出撃を命じる。ワイバニア第一軍団の足を止めてくれ。陣形、作戦は隊長にまかせる」
金髪碧眼の美丈夫は居直すとヒーリーに敬礼した。
「何か言いたげだな。スチュアート隊長」
「は。我が龍騎兵大隊の力ならば、敵軍を撃破できると思います」
「スチュアート隊長は先年のオセロー平原の戦いを覚えているだろう?」
「はい。忘れる訳がありません」
史上はじめて龍騎兵が一方的な敗北を喫した戦い、オセロー平原の戦い。スチュアートがヒーリー指揮下ではじめて参加した戦いでもあった。
この戦いで、スチュアートは敵龍騎兵大隊長を討ち取る戦果をあげている。
スチュアートは大空から見た。魔術散弾にとって地に堕ちていく龍騎兵を。数百の矢に貫かれ、息絶えていく龍騎兵を。
フォレスタル軍人として、彼は勝利に沸き立つ気持ちを抱くとともに、龍騎兵として底知れぬ恐怖を感じていた。
「前線に、優れた弓兵隊指揮官がいる」
「ヴェルナー・テンシュテットですか?」
「知っているのか?」
「”龍の眼を持つ猟兵””道化師ヴェルナー”数々の異名を持ちますが、共通しているのはワイバニア最高の弓兵であり、我々龍騎兵の天敵だということです」
「龍騎兵大隊は俺たちの切り札だ。だからといって、温存させておくつもりはさらさらないが、あのアルレスハイム連隊を破ったほどの手腕だ。これ以上の戦力低下はさけたい」
「分かりました。直ちに第一軍団攻撃に向かいます」
そういうと、スチュアートは再度敬礼し、司令部を辞した。
「珍しいわね、あなたが逃げを打つなんて」
傍らのメアリがヒーリーに言った。おそらくスチュアートも同じ気持ちであっただろう。
これまでの戦いでヒーリーは消極的な戦術をとったことはない。たとえ退却しても、常に勝利と結びついていた。
「アンジェラを倒したほどの大隊長だ。実力は軍団長にも匹敵する。慎重にもなるさ」
「嘘。今のあなたは恐れているのよ」
「何……」