第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五九話
前と左右から襲い来るフォレスタル軍に、ワイバニア第一軍団は色めきたった。
「うぉっ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
フォレスタルの重装歩兵が、機動歩兵が致命的な隙をさらけ出した敵を攻める。フォレスタル第五軍団は短期間で幾度もの実戦を経験し、その戦闘能力は他の軍団とひけを取らぬほどに成長していた。兵士達は指揮官の命令を忠実に実行し、的確に敵の急所をついた。
「陣形を固めよ! 前方の陣容は薄い! 血路を拓いて突破する!」
ハイネは高らかに声を上げたが、すぐに自嘲じみた笑みを浮かべた。その声、仕草に芝居がかったものを感じたからである。しかし、戦意をくじかれた軍団の態勢を立て直すには必要な手段であった。
エルンストが配下の参謀、伝令に次々に指示を飛ばす。ハイネの片腕は、第一軍団の参謀長としてその手腕を十二分に発揮した。浮き足立つ軍団をまたたく間に再編し、フォレスタル軍再攻撃の準備を整えるとともに、フォレスタル軍の陣形の弱点をハイネに助言した。
やぐらから敵の動きをみたヒーリーは額に手をあてた。
「やってくれるよ。まったく。こっちはのんびり戦っていられないというのに」
「モルガン隊長の護衛隊が突破されれば、わたしたち司令部は丸裸よ」
「並の軍団ならあきらめるか全滅しているのに、ワイバニア最強の名は伊達じゃないな。スチュアート隊長を呼んでくれ」
ヒーリーは軍団後方で待機している龍騎兵大隊長アレックス・スチュアートを呼び出した。