第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五八話
「力と力でぶつかれば、数が弱い方が不利に決まっておる。だが、あえてここは力で押すのだ。まさか、敵も我々が退かずに歯向かってくるとは思うまい」
モルガンはそう副官に告げた。敵の突進力を間近で見たモルガンは、敵の心理を逆手に取った作戦を選択した。
「しかし、相手は一個軍団。こちらは五個中隊。とても、勝ち目は……」
「ないな」
「大隊長!」
「だがそれは、長期にわたって戦線を維持した場合の話だ。敵の軍団の最大の弱点は側面にあることは明白。側面からの攻撃が来るまでのわずかな時間を稼げば良いのだ。合図とともに一斉射、のち突撃だ」
機動歩兵大隊が突破され、二列縦隊だったフォレスタル軍が左右に分かれていく。完全に両断された陣形の末端では、フォレスタル軍五個中隊の姿があった。
「あれを崩せば、フォレスタルの首は取ったも同然だ。全軍、速度陣形を崩すな!」
ハイネは勝利を確信した。自軍の十分の一にも満たぬ兵力は、たとえ司令部大隊の精鋭であったとしても、ワイバニア軍の戦力をもってすれば、十二分に撃破しうるものだった。
一秒、一瞬ごとに大きくなる敵の足音に、モルガンは口が渇いていくのを感じていた。
「さぁ、来るぞ! 勝負のときだ!」
モルガンはサーベルを握りしめ、高らかに言った。ごうと響く重低音の号令と、カイゼル髭の堂々たる姿は、恐れる味方に、敵に立ち向かう勇気を与えた。
「敵を蹂躙せよ!」
「第一陣、第二陣斉射! ぶちかませぃ!」
三基のバリスタと二百の連射弓から一斉に矢が放たれた。連装式の連射弓はわずかな間に五本の矢を連射できる。千本の矢がワイバニア第一軍団先陣三個中隊に襲いかかった。
「何が起こった」
「疾走する馬車は急に止まれん。無理に止まれば……」
モルガンの指摘通り、足下を崩された龍槍は一気に崩壊した。敵陣の中で停止し、減速できぬまま、ワイバニア兵は味方の屍を踏み越え、つまづき、さらに味方に踏まれ死体を量産していく。
「全軍、密集隊形。急げ」
冷静に事態を処理し、陣形の再編に取りかかったのは、ハイネの非凡さの現れであろう。しかし、ハイネの手腕を見せてやるほど、フォレスタル軍は甘くなかった。左右に分かれたフォレスタル軍が凄まじい速さでワイバニア第一軍団に攻勢をかけたのである。