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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五七話

司令部大隊長と他の大隊長とは性質が異なる。司令部大隊は軍団長、参謀長などが属し、軍団の頭脳とも言える存在である。それを預かるものは、戦闘における統率力の他に、軍団長から全幅の信頼を得られるものでなければならない。


他の九人の大隊長が裏切ったとしても、決して裏切らない人物。それが司令部大隊長なのである。


フォレスタル第五軍団司令部大隊長ウォーリー・モルガンもその一人である。


モルガンは三十年前のワイバニア軍の大侵攻で初陣を飾り、幾多の死線をくぐり抜けてきた、叩き上げの大隊長だった。


モルガンはヒーリーの馬車を辞すと前線に戻り、部下に指示を出した。


「全護衛中隊は防御陣形をとれ。第一、第二、第三中隊は弓兵装備。第四中隊は槍を構え。中央部に。第五中隊は遊撃戦力として騎兵装備で後方に待機。軍団長も敵も待ってはくれんぞ! さぁ、急げ急げ!」


自慢のカイゼル髭を揺らしてモルガンは声を張り上げた。その姿は軍団長よりも軍団長らしいと揶揄されるほどの威厳に満ちていた。


モルガンの働きをヒーリーとメアリは馬車のやぐらの上から見ていた。


「さすがはモルガン大隊長ね。もう陣形を固めているわ」


「だが、相手はあのハイネだ。五個中隊では荷が重いはずだ。両翼の速さがその勝敗を分けることになるか……」


ヒーリーはさらに前方の敵軍を見た。敵の先頭部はもう、防壁の装甲馬車を乗り越えている。軍団最後尾が追いつかれるのは時間の問題だった。


「殿の第一機動歩兵大隊に連絡。味方の退却時間を確保するんだ。だが、決して無理はするな、一戦交えたら後退し、左右両翼につけ」


ヒーリーは伝令の騎兵に伝えた。龍槍の前に一個大隊の防御が通用しないことは百も承知である。しかし、作戦を敵に気取られる訳にもいかなかった。


敵の目を覆うように、フォレスタル軍機動歩兵が立ちはだかった。


脆弱な防御陣にハイネは鼻を鳴らした。


「その程度の防御で、我々を止められると思ったか。全軍、陣形、速度このまま。敵陣形を粉砕せよ」


フォレスタル軍にワイバニア第一軍団が襲いかかったのはその数分後だった。


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