第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五六話
「軍団長、フォレスタル軍が!」
「陣形転換! 龍将三十六陣”龍槍”! 目標、フォレスタル軍第五軍団!」
ハイネの号令一下、ワイバニア軍第一軍団はまたたく間に陣形を変えていく。ワイバニア軍三個軍団を防ぎきったフランシスの横陣を一瞬にして突き崩した龍将三十六陣、龍槍である。ワイバニア最強最速の突進力を持つ龍の槍にヒーリー率いる第五軍団はなす術もなく壊滅すると思われた。
「突撃!」
ハイネは引き抜いた剣を高く掲げると、一気に振り下ろした。ミュセドーラス平野大決戦、その最終局面が幕を開けた。
一方、退却準備を整えていたフォレスタル第五軍団はワイバニア軍の来襲に色めき立った。
「速い!」
指揮所になる大型装甲馬車の窓から、参謀の一人が悲鳴に近い声を絞り出した。ワイバニア軍の異常なまでの早さは第五軍団首脳部を震え上がらせた。紙一重のタイミングをものにしたのはハイネだった。
「ここまでの速さとは……。退却を急がせるんだ!」
やぐらの上から龍槍を見たヒーリーは即座に退却を急がせた。速度が遅い部隊から順に斜面を登り始めているが、有利な斜面で戦いを行うには時間が足りなさすぎる。大損害は免れそうにない。ヒーリーは奥歯を強くかんだ。
「軍団長、作戦があります」
傍らのメアリがヒーリーに言った。そのまっすぐなまなざしはヒーリーに予感を感じさせるのに十分だった。うなずくヒーリーにメアリはそっと口を寄せた。
「陣形を鶴翼陣形に変えるんだ。なるべく戦線を長くとり、縦深陣に敵を誘い込め」
二列縦隊のフォレスタル第五軍団の隊列が左右に分かれていく。追いすがる龍槍がフォレスタル第五軍団を射程にとらえたのはこのときだった。
「進め、進め!」
ワイバニア兵はそれしか言葉を知らぬ様に叫び、走った。こうありたいと念じ、言葉に出せば、体はそれに応えてくれる。強力な自己暗示によって狂戦士と化したワイバニア兵たちは前方に横付けするフォレスタル軍の装甲馬車にとりついた。
同じ頃、ヒーリーは装甲馬車にいた司令部大隊長ウォーリー・モルガンを呼び出した。
「モルガン大隊長、ついに出番が来たようだ。我々第五軍団は総力を挙げて、敵第一軍団を撃滅する。司令部大隊護衛隊に鶴翼中央部を任せる」
「はい!」
モルガンは若き軍団長に敬礼した。