第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五五話
ワイバニア軍第十二軍団長リヒャルト・マイヤーは、マルガレーテからの命令を受け取っていた。
「第十二軍団は、第九軍団に続いて、敵第一軍団の殲滅にあたられたし……か」
マイヤーの視線の先には魚鱗の陣形に転換しながら移動する友軍の姿があった。さらにその先には、小さく陣形を組む敵軍がいた。その数、わずかに三〇〇〇。対するワイバニア軍は四万に及ぶ。いかに相手が精強であっても、十倍以上の兵力差はいかんともしがたいものだった。
「軍団長、いつでも準備はできてますぜ。動かなくてもいいんですかい?」
参謀の一人が、慣れぬ口調でマイヤーに言った。マイヤーは沈黙で返した。たかが三個大隊を全軍の三分の二で包囲する。そのことがいかに危険か、マイヤーは理解していた。
「我々はわずか二個大隊。動いたところで、戦局に影響はないだろうに……」
「しかし、ハイネマン軍団長の命令は『我に続け』でしょう? 動かなかったら命令違反になりますぜ」
「そうだな」
数瞬の間を置いた後、マイヤーは全軍前進の命令を下した。
「おうおう、集まってくる。集まってくるわ」
自軍めがけて襲い来る兵の群れを見たフランシスはうれしそうに笑った。
「我々に来るのは、第二、六、八、九、十二……。あとは第三軍団も。ざっと四万弱ですなぁ。全軍と言う訳ではありませんが、まぁ、悪くはない数でしょう」
傍らのウェルズリーも悠然とわらった。フランシス率いる第一軍団は目的を十分に達していた。
「さて、あとは前方の敵第一軍団をどう料理するかだの。何せあやつはあのヴィヴァ・レオを破ったほどの手練れだからのう」
「知恵を尽くし、戦いたいところですが、我々には時間も兵力も残されていません。とる戦術は限られています。ここは密集隊形を組んで側面攻撃といきましょう」
「そうじゃな……」
フランシスは指揮杖を振り、配下の部隊に命令を下した。三個軍団を相手に激闘を繰り広げた兵士たちは疲れてはいたが、まだ士気は落ちていなかった。最後の瞬間まで戦い抜く覚悟と気迫に満ちていた。
フランシスの前に真紅の軍団旗が見えた。ワイバニア第一軍団の龍の旗。その龍の眼をにらみつけたフランシスは指揮杖を前方に突き出した。
「全軍、突撃!」