第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五三話
フォレスタル軍攻撃のために陣形を転換するワイバニア軍。それは第二軍団だけでなく、オリバー・リピッシュ率いるワイバニア軍第六軍団も同じだった。
「そうか、アウブスブルグ殿も同じ考えか」
笑みとも憮然ともつかぬ表情でリピッシュは言った。
「軍団長、敵が追撃戦をかけるとは考えられないでしょうか?」
「そのときは、我々が敵の前に立ちはだかってやればよい」
「は?」
「わからぬか? 何も全軍でわずか三個大隊を攻撃せずとも良いということだ。我々は第二軍団の後方に展開、前後の敵に備えるのだ」
「はぁ……」
参謀の気の抜けた返事に内心舌打ちしながら、リピッシュは命令を伝えた。用兵としては中途半端に考えられるが、この位置は戦うには最も困難な位置取りだった。前後の敵に警戒しながら、絶妙のタイミングで攻撃と防御を行わねばならない。ただでさえ、ワイバニア軍によるフォレスタル軍への攻撃は紙一重で行われるのだ。リピッシュの行動はさらに神業的な呼吸を要求される。戦上手のリピッシュでさえ、成功の確率は低い作戦だった。
「敵軍の動き、味方の動き、どれが欠けても作戦は成功しない。こんなに気が張る作戦ははじめてだ……」
リピッシュは自分の軍団旗を見た。ミュセドーラス平野の風になびく第六軍団の旗印。その色はやけに色あせて見えた。
「これが、最後の戦いになるかもしれんな」
十二軍団長中、最も冷静で寡黙な男は小さくつぶやいた。