第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百五二話
メルキド軍を取り逃がし、フォレスタル第一軍団に蹂躙されたワイバニア軍は戦力の立て直しをはかっていた。
「第二軍団全軍反転。フォレスタル軍第一軍団を撃破します」
「マレーネ様!」
ワイバニア軍第二軍団長マレーネ・フォン・アウブスブルグはフランシスらフォレスタル第一軍団撃滅を決断した。
「分かっているわ、エアハルト。ここで敵に背を向けたら、わたし達は後ろから攻撃を受けるかもしれないというのでしょう?」
「はい」
「でも、とりあえずは大丈夫。敵は斜面に退避しているから、わたし達に追いつくまでに時間がかかるはずよ。敵はもう寡勢。それをワイバニア全軍がたたき、さらに反転してメルキド軍を攻撃するの」
「すごい……」
確かに成功すれば、完全勝利は間違いない。追撃しようと言う敵の心理を逆用した戦術だった。しかし、数々の仮定の上に成り立っていることも確かだった。一つにはフォレスタル第一軍団が短時間で撃破されなければならないこと。そして、もう一つがフォレスタル、メルキド連合軍が斜面を下って攻撃してくれるかということだった。このとき、マレーネはなぜか楽観的だった。
「鶴翼陣形による包囲が完成されつつあるのよ。敵は獲物であるわたし達を倒したくてたまらないはずよ」
(そうだろうか?)
エアハルトの中にマレーネへの一種の疑念が浮かんだが、彼は頭を振ってそれを捨てた。エアハルトにとって、マレーネは姉であり、母であり、教師であり、上官だった。彼の女性の理想像を具現化した存在でもあり、女神と等価値だった。信仰と言い換えても良い感情も持っている。そんな彼女に対して疑念を抱くなど、あってはならないことだった。
(マレーネ様は勝つ。絶対に)
目の前で第二軍団を指揮する白銀の女神をエアハルトは見た。母性と慈愛に満ちた女神。自分の理想。普段のマレーネと変わるものは何もない。勝利はマレーネとともにある。
少年副官は改めて思った。