第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百四九話
フランシスが第八軍団と戦っている頃、ハイネ・フォン・クライネヴァルト率いるワイバニア第一軍団は、ヒーリー・エル・フォレスタル率いるフォレスタル第五軍団と対峙していた。
見張り兵より第八軍団苦戦の報告を受け取ったハイネはしばらくの間沈黙を守っていた。
「こんどは、我々が不利になりました。いつまでもここにとどまっていれば、側面攻撃の餌食にされてしまいます」
参謀長エルンスト・サヴァリッシュの言葉にハイネは沈黙で返した。フォレスタル軍の意図が側面攻撃にあることはわかっている。問題はどう戦うかである。ワイバニア第八軍団を蹴散らしているフォレスタル軍を率いる将はハイネがこれまでに戦ったどの男よりも強い。数の上で優勢に立っていたが、死兵と化したフォレスタル第一軍団が相手では、ワイバニア最強のワイバニア軍第一軍団であっても、少々部が悪かった。
「フォレスタル第一軍団を攻撃しましょう。軍団長」
「何故だ?」
「フォレスタル第一軍団は我々よりも数は少なく、既に我が軍三個軍団と戦っているため、兵も疲弊しているでしょう。強力な戦力であるフォレスタル第一軍団を撃破すれば、敵の戦意をくじくことにもなります」
「貴公らしい考えだ。エルンスト」
エルンストは戸惑っていた。ハイネのことは軍団長になる前から知っている。果断即決のハイネが長考に入るのは今日で二度目である。このようなことはかつてあり得なかった。ハイネがエルンストの言葉に耳を貸さなかったことも何かがおかしい。ワイバニア軍の中でも指折りの頭脳を持つ参謀は、冷や汗をたらしていた。
「ワイバニア第一軍団、攻撃待機」
「攻撃、待機……?」
エルンストは耳を疑った。敵が迫りつつある。そして、眼前にも敵がにらみを利かせている。どちらかに対応して動かなければ、自分たちが全滅する。反論のまなざしを彼は自分の上官に向けた。
「貴公の言わんとすることはわかる」
ハイネはエルンストを見ずに言った。
「敵第一軍団の意図は二つある。一つはメルキド軍の救援。もう一つは我々の注意を自分たちに惹き付けることだ。ここで側面の敵と戦えば、相手の思うつぼだ」
「それでは、軍団長は……」
「そうだ。我々ワイバニア第一軍団は正面のフォレスタル第五軍団を撃破する」
ハイネの眼に意志の光が輝いている。ワイバニア第一軍団とフォレスタル第五軍団の三度目の戦いが始まろうとしていた。