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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百四六話

「後方の防御を固めよ」


タワリッシの来襲を知ったヒッパーは防御を固めた。しかし、このときのヒッパーの指揮は醜態と言ってもよかった。少なくとも、ヒッパー自身はそう思っていた。ワイバニアでもメルキドでもヒッパーの名は堅実な用兵を行う良将として評価が高い。だが、ローサ・ロッサとタワリッシの攻撃を前に指揮が後手に回っている。良将であるからこそ、無様な用兵を行った自分が歯がゆかったのである。


ヒッパーの苦闘を見たタワリッシは腰の大剣に手をかけると、さやから引き抜いた。


「敵の陣形は乱れているぞ。騎兵隊は俺に続け!」


タワリッシは騎兵隊の先頭に立つと、愛馬を全速力で走らせた。

メルキド騎兵五〇〇もそれに続いている。


「敵はわずかだ。手柄をあげる機会だぞ」


ワイバニア軍の中隊長は声を上げた。熟練兵にしても、新兵にしても、これほど魅力的な言葉と局面はなかなか存在しない。敵軍の最高司令官の一人が、寡兵で突っ込んでくるのだから。槍の柄に自然と力が入る。絶好のえさを大口を開けて待ち構えたワイバニア軍は、そのえさがとげに守られていることを見落としていた。


最前線の歩兵に数百の矢がつきたった。一瞬、ワイバニア軍は何が起ったのかわからなかったであろう。


砂塵の中で陣形を変えたメルキド騎兵が馬上から矢を放ったのである。第一射、第二射……。前方から迫り来る鉄の暴風に、ワイバニア歩兵は槍を捨てて、敵に背を向けた。


「醜態を見せるな! 軍団長閣下も、敵も見ているのだぞ!」


大隊長、中隊長、古参兵は口々に新兵を怒鳴りつけたが、希望と期待を裏切られた新兵の狂躁は制御しようがなかった。


「突撃!」


崩壊しかけたワイバニア軍の戦線に、武器を弓から剣に持ち替えたメルキド騎兵が殺到した。戦闘で突入したタワリッシは愛剣を振るい、わずかな間で三人の敵歩兵を血祭りに上げた。


「陣形を崩すな。崩せば敵と同じ目に遭うぞ」


タワリッシは怒鳴った。寡兵であるにもかかわらず、自軍が優勢なのは、何も自分たちが強い訳ではない。敵が混乱してくれているからだ。敵も有能な軍団長であることには疑いない。自分が指揮しているにしても、にわかづくりの部隊では正規軍を前にひとたまりもないということは彼自身、もっともよく理解していた。

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