第二章 戦乱への序曲 第六話
「父上は甘すぎる……」
父の判断に不服だった皇太子ジギスムントはそうつぶやくと、父を追って竜王の間を退席した。
「諸将よ。今日のためによくぞ集まってくれた。明日まで休息をとるようにとの陛下のお達しである。次の戦いのために、鋭気を養え」
ハンスの号令とともに諸将は起立すると、それぞれ思い思いのタイミングで竜王の間をあとにした。ヨハネスがろうかに出て、自室へ戻ろうとすると、右元帥のシモーヌに呼び止められた。
「右元帥閣下。私などに何の御用ですか?」
ヨハネスは心底警戒した様子でシモーヌに言った。
「そんなに警戒なさらないで。ハイデルベルグ軍団長。何もとって食べはしないわ」
獲物にまとわりつく蛇。まさにその形容が彼女にはふさわしかった。シモーヌはヨハネスに密着するくらい近づくと、ヨハネスにささやきかけた。
「ただ、わたしに力を貸して欲しいの。……あなた、ワイバニアの新時代に興味はない?」
「何? 何を……」
「ワイバニアの新時代」「力を貸して欲しい」ヨハネスはシモーヌの要領がつかむことができなかったが、どす黒い予感を感じていた。
ちょうどその頃、ヨハネスはアンジェラが竜王の間から、出てくる姿を見つけた。
「アンジェラ! ……とと、右元帥閣下。私は約束がありますので、今日はこれにて……」
ヨハネスはアンジェラを呼ぶと、シモーヌを体から引きはがし、アンジェラのもとにかけていった。シモーヌは小さくため息をついた。