第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百三一話
「三個大隊を相手にわずか一個中隊でこれほどの時間を稼ぐとは死なせるには惜しい指揮官でしたわ。追撃を中止しなさい。これ以上の深追いは危険ですわ」
マーガレットは敵将ペリクセンの才能を惜しみつつ、自軍に追撃の中止を命じた。スタンリー支隊が落とした岩盤によって新たに区切られた戦線まで後退したフォレスタル軍は左翼の兵力を薄くした斜線陣をしいた。
「あぁ、いやらしい戦い方だねぇ。もっとすっきりやれないのかい?」
マーガレットの斜線陣を見たワイバニア軍第九軍団長マルガレーテ・フォン・ハイネマンは舌を鳴らした。
「迂闊に攻め入ってはだめよ、マルガレーテ。攻め込んだら最後、今度は右翼から岩を落とされるわ」
「そんなことわかってるさ。だからいらだってるんじゃないか」
参謀長のフランシスカの言葉をマルガレーテはいらただしげに返した。フォレスタル軍を攻撃したらどうなるかは、この戦場にいる誰もが分かる簡単なことだった。
「攻撃できるものなら攻撃してみろ」
マーガレットのしいた斜線陣はワイバニア軍への挑発と示威行為だった。
マルガレーテの心は揺れていた。攻撃すれば、数十分前の二の舞。攻撃しなければ、この戦いの敗北。大損害を被るという点では、どちらも変らなかった。わずか数秒。目をつむった女司令官は、静かに目を開いた。
「全軍、密集隊形! 小細工はなしだ。大兵力をもって、敵軍を叩き潰す」
軍団長の命令に、フランシスカはゆっくりと首を縦に振った。
単純きわまりないが、敵軍の五倍する兵力で陣形を正面突破するしか、マーガレットの戦術を破る策はない。スタンリー支隊が岩盤を落とすより早く、敵陣を突破するかが勝敗を分かつ鍵だった。
「前進!」
陣形を整えたワイバニア軍第九、第十一、第十二軍団はフォレスタル軍に向けて前進を開始した。