第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百二十八話
「いい布陣だね。たった三個大隊の割に、重厚なもんだ」
前方のフォレスタル第四軍団を見たマルガレーテはマーガレットの布陣を賞賛した。
マーガレット率いる三個大隊は侵入口の幅ぎりぎりに布陣している。前衛に二個大隊、後衛に一個大隊を配し、横一文字に陣を敷いている。
第一列に弓兵、第二、三列に槍兵、最後列に騎兵を配置して、歩兵の突撃に対抗する構えである。
「こんなもんでは、それほど時間はもたないさね。さて、魚鱗の陣形で突撃だ。数を頼みに押し出すよ」
マルガレーテは腕を振り上げた。露出の高いプレートメイルの隙間に戦場焼けした肌がのぞく。三十二歳と言う年齢とは思えない瑞々しい肢体。彼女の周囲の評価とは裏腹に、マルガレーテは女性として魅力的な面を持っていた。
「マルガレーテ、くれぐれも言っておくけれど……」
「わかってるよ。『用心しろ』だろ?」
フランシスカの進言をマルガレーテは流した。彼女は油断も侮りもしていない。敵軍の陣形は確かによくできているが、警戒する程ではない。全軍をそのままぶつけてもよかったが、彼女はここで慎重さを発揮した。
マルガレーテは全軍を五つの戦術集団に分け、マーガレットに対した。
五つの集団を交互に前進させ、敵の数をゆっくりと減らしていく作戦である。この作戦では、敵に大切な時間を与えてしまうことになるが、合流を急いて、敵の奇計にはまってしまうのは、ワイバニア軍にとって避けなければならないことだった。
参謀長のフランシスカも、マルガレーテの策に賛同した。
「突撃!」
マルガレーテ・ハイネマン率いるワイバニア軍予備兵力第一陣が前進を開始した。歩兵が軍靴を響かせ、迫り来る。槍が鳴り、戦場につわものどものときの声が響き渡る。
「……来たようですわ」
敵の前進を見たマーガレットは指揮杖を高く掲げた。
「構え!」
弓兵達が新型連射弓を構え、狙いを定めた。照準器の真ん中に、敵兵の姿が入る。あとは、引き金を引くだけ。弓兵達は息を吸い、吐いた。
羽衣の二つ名を持つ女将は敵が射程距離に入ったことを確認すると、杖を大きく振った。