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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百二十七話

「予想より早く動きましたな。敵には、ずいぶん勘のよい参謀がいるようですね」


谷の上から、スタンリーは第九軍団の陣形転換を確認した。第九軍団九〇〇〇の後ろには、新第十二軍団となった旧第十一軍団残余二〇〇〇と、新第十一軍団となった旧第十二軍団八〇〇〇が続いている。フォレスタル軍によって、大きな損害を受けた後続二つの軍団はよく統制がとれていたが、司令部大隊を失ったことが大きく、隊列はやや乱れていた。


「さて、あとは時期を見るだけ。軍団長、あとは頼みますよ」


スタンリーは視線をマーガレット率いる三個大隊に向けた。いい布陣だ。過去の失敗から、マーガレットは確実に学んでいる。あとは、自分達の六倍にもなる敵とどう戦うかだった。


「す、すごい数です」


第四軍団次席参謀アビー・マクファーデンは背後の味方と前方の敵を見比べてつぶやいた。一九〇〇〇の兵力はさほど大軍とは言えない。現在、狭い平野にはその十倍する兵力がひしめき合っているのだから。しかし、アビーには地を覆い尽くす様な大軍が彼女めがけて押し寄せているように感じられた。


何と言う大軍、何と言う回復力。兵力の差は、そのまま国力の差につながる。二万に届く軍団、その背後にある巨大な力に、小さな一個の人間であるアビーは飲まれようとしていた。


小さく震え始める次席参謀の視界を小さな手が覆い隠した。


「臆することはありませんわ。あなたの前にはわたしがいます。羽衣のマーガレット。あなたはわたしの羽衣だけをみていれば良いのです」


手袋の隙間から見えるフォレスタル唯一の女性軍団長は戦乙女にふさわしい出で立ちと気品を漂わせている。


騎兵用の胸甲と動きやすい鎧に身を包み、深くかぶった甲は彼女の口元まで隠している。微かに見える彼女の小さな口はわずかな笑みをたたえている。


頼もしい……。第十二軍団と戦ったとき以上に、アビーには前に立つ上官が大きく見えた。強大な敵を前に彼女は微塵もたじろいでいない。櫓に立つ女将はマントを翻すと、アビーの方を向いた。


「馬上にて指揮を執ります。ことここに至って、馬車での指揮は不要ですわ。アビー、あなたはこの馬車に残って本陣へ戻りなさい」


「いえ、わたしも軍団長と共に参ります。軍団の次席参謀はわたしです。スタンリー参謀長が不在の今、軍団長の補佐はわたしの仕事です」


アビーは引き下がった。戦わなければならない。否応なく巻き込まれたのではない。これからは自分の意志で戦うのだ。強い意志の光を瞳にたゆたえて、アビーは味方に背を向けた。


新第四軍団、最初の戦いが、今、幕を明けようとしていた。


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