第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百十八話
三〇基のバリスタから、大型の矢が一斉に放たれる。一本一本の大型矢の威力は絶大である。それが虚をつかれたワイバニア歩兵へと飛来する。腕一本はあろうかという矢はワイバニア兵の身を両断すると、地面に深々と突き刺さった。
「機動歩兵、掃射用意」
マントを翻し、ヒーリーは冷静に指示を出す。ワイバニア軍はさらに失念していた。フォレスタル軍の馬車は単なる防壁でも兵員輸送車でもない。無数の矢を敵に浴びせかけるガンシップだということを。
「撃て!」
司令部の信号旗を確認した大隊長が掃射命令を出した。バリスタに浮き足立った歩兵に数百本の矢が襲いかかった。
「アルレスハイム連隊、第一騎兵大隊反転。敵歩兵を側面から討つ!」
アンジェラは手綱をひき、金色の髪をきらめかせ号令した。騎兵大隊は一瞬足を止めると、蹴散らした敵第三歩兵大隊へと向かって行く。
敵の弱点を突くのは兵法の常道。そこには卑怯と言った感情論が入り込む余地などなかった。ワイバニア軍兵士達は凄惨な事実を受け入れる他はなく、アルレスハイム連隊とフォレスタル騎兵大隊の攻撃を受け、ミュセドーラス平野の大地に死体を量産していった。
「フォレスタル軍め、やってくれる……」
ハイネは端正な顔を歪めた。一個大隊の壊滅。それはワイバニア第一軍団の無敗神話の崩壊を意味した。それだけではない。自分の采配が後手に回ったことが何よりもハイネの矜持を傷つけた。
「軍団長、騎兵大隊が危機に陥っています。敵兵力は三〇〇〇。こちらは一〇〇〇、明らかに向こうに分があります」
「わかった」
そういうと、ハイネは戦線をやや後退させた。陣形自体も変化させねばならなかったが、ハイネは後方に配した弓兵大隊を前に出し、上空と陸上からの攻勢に対抗しようとしたのである。
こうして、ハイネは味方の戦場離脱を成功させた。
「さすがはハイネ・フォン・クライネヴァルト。後退しても隙は見せてくれない」
「勝ったのね……。わたしたち、あの第一軍団に」
メアリは震えた。アルマダの剛将、名将そのことごとくを破って来たワイバニア第一軍団。地上最強とも言える軍団が、今初めて後退するのだ。兵士達の間から歓声がわき起こった。
「まだだ!」
ヒーリーは司令部一隊に響き渡る程の声で喜びにわきたつ兵士や幕僚を抑えつけた。勝利の凱歌をあげることを彼はまだ許さなかった。




