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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百十七話

歩兵による長槍防御。これが決まっていたら、騎兵に少なからず損害を与えていただろう。しかし、現実にはそうはならなかった。騎兵隊を指揮するのは、アンジェラ・フォン・アルレスハイム。騎兵による戦術、長所、弱点を熟知している。彼女は歩兵防御を矢による弾幕射撃という形でそれを破って見せた。


通常の矢ならば、さしたる被害を与えなかっただろうが、時期と数が違っていた。


防御のため、敵歩兵が両手で槍を握る瞬間を見計らって、彼女は二〇〇〇本の矢を敵に降らせた。瞬時に盾を構え直すことが出来なかったワイバニア歩兵は次々と矢にその身を受けていった。


「ぐぁっ!」


「ひぃっ!」


ここで新兵と古参兵の違いが現れた。熟練兵には矢が飛来する道が見えると言う。彼らは間一髪矢をかわし、難を逃れたが新兵は別だった。彼らは数本の矢をその身に受けた。地面に縫い付けられ、痛みに血の涙を流しながら、彼らは母を呼び続けた。


「母さん……。母さん……」


国のため、命を捧げるというのは、上官や政治屋のお題目に過ぎない。少なくとも、末端の兵士達は故郷で待つ家族のために戦い、死んでいった。


「騎兵隊……」


アンジェラは敵の惨状に悲しげな表情を浮かべながら、愛剣を高く掲げた。敵を殺さねば、もっと多くの仲間が死ぬ。仕方ないではすまされないことも彼女には、わかっている。だが、彼女は仲間を守るため、戦い、殺すしかなかった。戦いの流れを変えるには敵の陣形が崩れている今しかない。彼女は剣を振り下ろした。


「突撃!」


二個大隊、二〇〇〇の騎兵が敵陣めがけ地を蹴り、疾走する。追いすがる歩兵をはねのけ、踏み砕き、たちまち、敵の鶴翼陣形に大きな穴を開ける。


「第三歩兵大隊に通達。前進し、敵側面に回り込め。第一騎兵大隊にも通達しろ。城門を閉じよとな」


フォレスタル騎兵の奮戦に、ハイネは即座に命令を下した。ハイネが採用したのは各個撃破戦術だった。有力な攻撃手段である騎兵を鶴翼包囲下に封じ込め、殲滅し、敵残存兵力を破る。彼の配下の歩兵も騎兵もフォレスタル騎兵を閉じ込めるために移動の最中である。


「勝った……」


ハイネがそう考えたのも無理はない。彼の部下達は完璧に命令に応えている。アルレスハイム連隊が包囲下に入ったとき、彼の陣が完成する。


アルレスハイムの指揮も卓越しているが、第一軍団の精鋭の重囲から抜け出せる部隊はこの世界には存在しない。


この過信が、彼の命取りになった。重囲を抜け出せる兵士は存在しない。ならば、それ以外は? 彼は一瞬だけ失念していた。なぜ、ヒーリーが長射程のバリスタを用意していたのかということを。彼はヒーリーの陣を見た。バリスタが、彼の方向に狙いを定めていた。


「しまった……!」


「撃てぇっ!」


ハイネの驚きと同時に、ヒーリーの号令が上がった。



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