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序章 その四

会議が止まりかけたとき、フォレスタル王、ジェイムズが口を開いた。アーク・プリマス港の開港と貿易利益の約七〇%をメルキドに譲渡することをギムレットに提案した。


アーク・プリマス港はカスパール河畔にあるフォレスタル唯一にして、最大の軍港であり、ここを開港してメルキド、フォレスタル両国の川上貿易から生まれる利益は莫大なものになると試算された。


また、河畔唯一の拠点を解放するということは事実上、フォレスタル水軍の武装解除を意味していた。


フォレスタル王の突如にして、大胆な提案にメルキドの総帥は驚き、しばらく考える時間をくれるよう申し出た。


その申し出に間髪入れずに、ジェイムズはさらなる案を提示した。実弟である、ウォルター・エル・フォレスタルを人質に差し出すというのである。若年のため、実子を持たぬジェイムズにとって、最大の提案であった。さらに、嫡子が生まれた場合には、代わりに嫡子を人質に差し出すとジェイムズは提案した。


ギムレットはついに折れ、交渉は合意に達した。彼らの間でなされた合意は以下の通りである。


・アーク・プリマス軍港の開港と貿易上の利益の7割をメルキド公国に譲渡する。

・フォレスタル王族、ウォルター・エル・フォレスタルを人質とすること。ただし、王家に嫡子が生まれた場合は、直ちに交代するものとする。


そして、ギムレットからも新たな提案がなされた。


・メルキド総帥家とフォレスタル王家との婚姻

・ギムレット嫡子、スプリッツァーをフォレスタル王国への人質とすること


「一方的に人質を出されては、メルキド公国の名折れ。相応の人質を出して、和平の証としたい」


それがギムレットの意志であった。こうして、星王暦二一五三年五月六日、メルキドとフォレスタルの間に和平条約が結ばれた。


この和平条約はメルキドの外交戦の勝利と言う意見が支配的であるが、それに反対する意見も多数出ている。この和平条約を結んだことはメルキドの世界統一の好機を逃させただけではなく、国力の低下したフォレスタルにとって、メルキドとの外交の足がかりを作ることにつながったからである。


事実、武勇を尊ぶメルキドの国家元首、ギムレット総帥は勝算有りとはいえ、少数の供しか引き連れず敵国に赴いたジェイムズの勇気と決断力を認めており、ジェイムズも野望よりも誇りを貫いたギムレットの姿勢に深く感じ入っていた。


彼らは政治の場では互いの国の重責を担い、相争わざるを得なかったが、一度外交のテーブルを離れたときには無二の親友同士となっていた。


こうした互いのバランス取りによって、フォレスタルとメルキドは戦火を交えることのない関係が十年以上続き、三十歳になったフォレスタル王、ジェイムズ・エル・フォレスタルは、メルキド総帥、ギムレットに同盟締結を申し入れた。


若き王の親友はこれを快諾し、国内の意見をまとめあげることを約束した。

星王暦二一六四年七月七日、国境線であるカスパール川上で、フォレスタル王国とメルキド公国との間に安全保障条約が締結された。世に言う「船上の盟約」である。


国境線、相互不可侵、ワイバニア侵攻の際の増援要請などがまとめられたこの条約の締結によって、ワイバニアと二国の国力比は拮抗し、ワイバニアは双方の国に六個軍団以上の大規模侵攻が事実上不可能になった。


小規模、または一から二個軍団規模の戦闘はあったものの、世界は大きな変革もなく、緩やかにして危うい平和を保っていった。


それから、二十年。星王暦二一八二年六月四日、世界は再び動き始めることになる。

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