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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第百話

「軍団長、戦いたいんでしょう?」


エミリアはかけていた瓶底眼鏡をきらめかせた。


「何で分かった?」


「軍団長の考えることは、敵の考えることよりもはるかに分かりやすいですから」


参謀長の一言にウィリアムは血管を浮き上がらせた。


「このや……」


殴り掛かろうとしたウィリアムを、エミリアは指一本で制した。その目はよどみなく澄み、ウィリアムに有無を言わせぬ迫力を持っていた。


「軍団長が戦いたいのは分かります。勇名をもってならすフォレスタル第三軍団ですもの。このわたしだって戦いたいんです」


ウィリアムがエミリアの手を見ると、彼女の白い手がぎゅっと握りしめられている。エミリアもまた、戦いたい衝動にかられているのだ。彼女はそれを必死に理性で抑えつけているのがウィリアムにも分かった。


「エミリア、お前……」


「わたし達には、一万人の命と、フォレスタルの運命がかかっているんです。私たちの気持ち一つで、兵士達に死ねとは言えません」


彼女は口を真一文字に結んだ。参謀として、ゼッタに譲れないものがある。ウィリアムは戦う気をため息と共に吐き出した。


「女一人に我慢させるのは、バーンズ家の名折れだ。お前が一万人の命を背負っている顔をするな。軍団長はおれだぞ。お前含めて、一万人の命と責任をしっかり背負ってやる」


ウィリアムは年上の参謀長の肩に優しく手をおいた。


「軍団長……。今だけはすごくいい男に見えます」


「今だけは余計だ! ……エミリア。ヒーリーの軍団が敵を撃破したようだ。あとは、敵軍の動きに合わせて、こちらも後退する。それでいいな?」


「はい……」


「さて、それがいつになることやら……」


そう言うと、ウィリアムは双眼鏡を向けた。最前線ではベティーナ率いる第七軍団がフォレスタル歩兵に圧され、じりじりと下がりはじめている。だが、まだまだ決定的な瞬間にはほど遠い。ウィリアムはワイバニア第七軍団全面退却の時を待っていた。


「シラーの安否はどうなっているの?」


戦術家として一応の冷静さは残していたが、生死不明のシラーにベティーナは気が気ではなかった。ミュセドーラス平野決戦前夜に抱いた彼女の悪い予感が的中した形となったのである。開戦前、第三軍団長専用マントを預けられたときのシラーの顔が、たまらなく懐かしく思えた。


「軍団長……、軍団の指揮をわたしに預けていただけないでしょうか?」


ベティーナの前に副軍団長のアルトゥル・フォン・シュレーゲルが歩み出た。老練な副軍団長はベティーナの尋常でない精神状態を感じ取ったのである。フォレスタル歩兵相手に互角の戦いを演じてきたが、兵力差の均衡が破れた今、どうなるかはわからない。他の軍団にまで気を配っていたら負ける。アルトゥルなりの気遣いだった。

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