第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第九十八話
「助けられたようだ。礼を言う」
「いえ、おれはそれが仕事ですから。しかし、そろそろ頃合いかと思います」
アンジェラはレイに頷いた。ワイバニア軍弓兵大隊は壊滅状態だ。兵士達も我先に戦場を離脱している。アルレスハイム連隊の戦いは終わったのだ。レイは胸にかけた笛を吹いた。彼の笛に応えるように激戦の中、甲高い音がこだまする。「アルレスハイム連隊、退却」の合図だった。
散り散りになり、逃げ惑うワイバニア軍とは対照的に、整然と隊伍を組んだアルレスハイム連隊の兵士達が秩序をもって移動を開始している。
双眼鏡越しに戦いの終焉を見たヒーリーは敵残存兵力に降伏勧告を行なった。勧告を受けたワイバニア軍第三軍団第一歩兵大隊はその勧告を拒絶した。すでに大隊の半数が死に、さらにその半数が戦闘不能であった大隊は、それでも最後の一兵までも戦う気概をフォレスタル軍に見せつけた。
「戦争は狂気の入り交じる地獄だ。そんな狂気に付き合って、無意味な戦いで死ぬことはない」
ヒーリーは再度勧告したが、ワイバニア軍は拒絶した。
「我々は武人として生き、武人として死ぬ。最後に貴隊のような連合軍最強部隊を敵手と出来たことを誇りに思う」
以後、ワイバニア軍からの返答はなかった。ヒーリーは包囲していた機動歩兵大隊を弓兵大隊に変えると、生き残りの敵歩兵に向けて、掃射を命じた。
フォレスタル軍弓兵は涙を流し、敵に弓を引いた。命のやり取りをしていた間柄とはいえ、これでは戦いではない。単なる虐殺に堕ちてしまう。しかし、ミュセドーラス平野丘陵部斜面を死に場所に選んだワイバニア歩兵はその矢を受け入れた。中には敬礼しながら、その身を貫かれ絶命したものもあったと言う。敵兵がすべて死体に変わるまで時間はかからなかった。ワイバニア第三軍団第一歩兵大隊、生存者なし。両軍にとって、悲しすぎる戦いの帰結であった。
「ヒーリー……」
メアリはヒーリーの肩を優しく叩いた。
「あなたは責められることはしていないわ。彼らにふさわしい死に場所を与えただけ。自分を責めないで」
「メアリ……。おれはこんなこと認めたくない。認めてたまるか……。国のために死ぬなんて。誇りのために死ぬなんて……。第五軍団全兵士に命令してくれ。ミュセドーラス平野斜面に散った敵軍将兵に敬意を表し、起立、敬礼せよと」
ミュセドーラス平野斜面にいつにない静寂が訪れた。フォレスタル軍の生者は全て激闘を演じ散っていった好敵手に敬礼を捧げた。
ワイバニア第三軍団の損害、二四六八名。対するフォレスタル軍の死者は五十三名だった。フォレスタル軍第五軍団初の戦いはフォレスタル軍の圧倒的勝利で幕を閉じた。
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