第二章 戦乱への序曲 第一話
第二章開始です!お楽しみください。
星王暦二一八二年七月一日フォレスタル王国侵攻作戦失敗の報告を受けたワイバニア皇帝アレクサンデルIII世は最高軍事会議の招集を決定した。
ワイバニア帝都ベリリヒンゲン中心部にある帝国軍大本営、翼将宮に最高級軍事指揮官である十二軍団長、軍政の最高指導者である左右両元帥、実戦指揮官最高位として彼らをまとめる任にある皇太子ジギスムントが出席した。
「ジークムントめ。軍団壊滅とは無様な戦いをしたものだ」
「俺の軍団に任せておけば良かったんだ。そうしたら、たかが四〇〇〇の小勢、すぐにでも全滅出来たものを」
「ムリムリ。あんたの軍団じゃ、返り討ちが関の山だって」
「まぁまぁ。誰だって勝ち続けることは出来ない訳だからね」
「ほほ……常勝無敗の第三軍団長がよく言うわい」
「それにしても、我ら十二軍団長が一同に会するのは何ヶ月ぶりか」
「ヴィクターの坊やが軍団長になったとき以来だから、一年ぶりってところか」
ワイバニア正規軍を支える十二人の軍団長は翼将宮の中で、もっとも豪華で、最も大きな部屋である竜王の間に備えられた円卓を囲んで腰掛けた。十二人の軍団長が席についた時、竜王の間の中でもひと際豪華な扉が開き、ワイバニア皇帝アレクサンデル、左元帥ハンス・フォン・クライネヴァルト、右元帥シモーヌ・ド・ビフレストが姿を現した。十二人の軍団長はワイバニア全軍を統べる皇帝を前に起立し最敬礼した。皇帝は無言で片手をあげて返礼すると居並ぶ諸将に着席を促した。
「今回諸将にあつまってもらったのは、先のフォレスタル侵攻作戦の失敗についてである。第三、第七、第十軍団長、それぞれ龍の眼を差し出されよ」
極低音だがよく通る大きな声で、会議の進行役である左元帥のハンスは言った。ヨハネス、アンジェラ、ジークムントはそれぞれ手に収まるサイズの小さな水晶玉を円卓の中心に差し出した。
龍の眼。ワイバニアの秘宝にして唯一の魔術兵器だった。兵器とはいっても、戦闘に直接使用されることはない。記録として使われるものであり、その眼に対象となるものを記録させることで映像をあとから再生することが出来た。魔術の衰退によってその製法が失われて久しく、ワイバニア国内にも十五個しか現存しない龍の眼は、代々ワイバニア十二軍団長の証として受け継がれて来た。
ハンスは近侍の兵に部屋を暗くさせると、龍の眼に優しく触れた。すると、三つの眼から戦いの映像が映し出された。