第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第八十九話
フォレスタル第四軍団宿営地、戦場から退却を果たしたスタンリー支隊は第四軍団本隊と合流を果たしていた。スタンリー・ホワイトは指揮中枢である第四軍団長専用馬車に入ると、次席参謀アビー・マクファーデンに敬礼した。
「陣容を見てきました。さすがはマクファーデン君。戦力として申し分ありません」
「ありがとうございます。参謀長。残りの三個大隊の再編が終わりました。現在補給の最中です。それもあと十五分で終了の予定です」
「結構。……マクファーデン君、軍団長はどちらに?」
「今は再編した騎兵大隊を見に行っています」
マーガレットは隊列を整えた騎兵大隊の先頭に立っていた。涙のあとを隠すためだろう。騎兵用のかぶとを深く被り、マントを風にはためかせたその姿は、戦乙女そのものだった。スタンリーはその堂々とした美貌に一瞬目を奪われた。
「申し訳ありません。敵を足止めできませんでした」
「湯浴みの時間はしっかりと確保してくれましたわ。これで十分よ」
謝るスタンリーを一瞥することなく、マーガレットは言った。
「それで、どうしますの? お兄様の第五軍団がずいぶん苦戦しているようですけれど」
マーガレットは再編なった騎兵大隊を見にきただけではない。ワイバニア軍とフォレスタル軍の戦況を一番近い場所で確認するためでもあった。スタンリーは両軍の陣容を確認すると、マーガレットに言った。
「第四軍団は全軍で第五軍団を援護すべきでしょうが、時間と兵力が足りません。当初の作戦である後方撹乱が不可能になります。しかし、アルレスハイム連隊を後衛に配しているのを見ると、最悪アルレスハイム連隊を後方に回すつもりなのでしょう。総司令官は後方撹乱の手をまだ捨てていません」
「では、動くべきではないと?」
「いえ、それでは、我々は遊兵になってしまいます。我々は連隊規模、すなわち二個大隊だけで援護に向かいます」
「それでは戦力の分散になってしまい、かえって敵の優位を招くのではありません?」
マーガレットの問いにスタンリーは首を振った。
「軍団長、この戦いはもともと敵に優位性があるのです。単に攻め込むだけで我々にいくつか選択肢をとらせることができ、我々に有利な攻撃のどれかを阻むことが出来ます」
マーガレットはあごに親指をあてた。
「なるほど……」
「軍団長、二個大隊でも十分に戦えます。機動歩兵二個大隊で敵に側面攻撃を仕掛けます」
スタンリーはしゃがむと地面に作戦図を描き、マーガレットに作戦案を示した。士官学校の教官が生徒に教えるように、彼はマーガレットに伝えた。一つ一つ丁寧に彼は質問に答え、マーガレットの提案をも取り入れ、作戦を取り上げていった。
「軍団長、この作戦でいきましょう」
スタンリーは眼鏡を外して立ち上がり、眼光鋭くふもとを見た。最後方にいる龍騎兵大隊がその大きな翼を広げていた。