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第一章 オセロー平原の戦い 第三十四話

第一章最終話です。

「勝ったのか……俺たち……」


フォレスタル軍弓兵の一人が小さく口に出した。


「勝ったんだよ……俺たち、あのワイバニアに勝ったんだ!!!」


彼の隣で、もう一人の弓兵が叫んだ。勝利の喜びはヒーリー軍全隊を包み込み、歓声となって沸き立っていた。ヒーリーもはにかみながら喜んでいた。


「ヒーリー殿下……」


ブルーノによって重傷を負ったアレックスがヒーリーのもとに担架で運ばれて来た。


「よくやってくれた。最高のタイミングだった。スチュアート隊長。」


ヒーリーはこの戦いで最も活躍した将をねぎらった。


「ありがとうございます……」


フォレスタルの蒼き閃光と讃えられた龍騎兵は傷をおして声を絞り出した。


喜びに沸き立つ戦場で、ヒーリーは無数に横たわるワイバニア兵の骸を目にした。苦悶の表情を浮かべたもの。撤退する味方、後退する味方にめちゃくちゃに踏み倒され、原形をとどめていないもの。身の毛もよだつ光景が、ヒーリーの眼前に広がっていた。


「皆。最後の仕事だ。疲れているのは分かっているが、ワイバニア兵を弔ってやろう……」


ヒーリーは自軍の兵士達に言った。ある一人の兵士が前に出てヒーリーに突っかかった。


「どうして俺たちが奴らを弔ってやらなければならんのですか!?攻め込んで来たのは奴らだ。俺たちは奴らに殺されるかも知れなかったんですよ。」


仲間が何人か止めに入ったが、兵士はヒーリーに怒りのまなざしで睨みつけていた。


「ああ、そうだ。俺たちは奴らに殺されるかもしれなかった。だからだ。戦場で骸をさらすのは今度は俺たちかもしれないだろう。せめて、戦った者の礼儀として彼らを懇ろに弔ってやらなければならない。偽善だと笑いたければ笑ってくれ。」


ヒーリーは兵士達を割っていくと、ワイバニア兵の亡骸の前に立った。彼はワイバニア兵の亡骸のそばで穴を掘り始めた。道具も何もない。自分が血と泥だらけになるのも構わず、ただ、手だけで掘り続けていた。


その姿を見つめていた兵士達の中から、一人がヒーリーのもとに駆け寄っていった。彼もまた道具を使わずにヒーリーが掘っていた穴を無心で広げていった。また二人目の兵士もまた、彼に続いた。一人、また、一人、ヒーリーのように死んでいったワイバニア兵を弔おうとする兵士が増えていった。それは一〇〇人から、五〇〇人、最後は全員が集まってワイバニア兵が永遠に心安らぐ場所を掘っていった。


「おい、手なんかじゃだめだ。スコップを持って来い!」


「手伝ってくれ! 亡骸を穴に入れたいんだ!」


兵士が口々に声を上げた。ヒーリーは立ち上がって周りを見た。五〇〇〇からの兵士がワイバニア兵のための墓穴を掘っていた。兵士達は皆、ヒーリーの気持ちを汲んでくれたのだ。


「ありがとう……皆……」


ヒーリーは一人、礼をした。


「何やってるんですか。司令官。司令官が言ったんですよ。ワイバニアの兵士達を弔うと。早く埋めて弔ってやりましょう。こんな平原にさらされたままじゃ、さぞかし寒いでしょうよ。」


ヒーリーの肩を叩き、兵士がヒーリーにスコップを手渡した。上空からそれを見ていたヴェルは高くいなないた。ワイバニア兵の鎮魂のために……龍の旗の下に散っていったつわものたちのために。



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