第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第八十一話
ヒーリーはそのプランBを了承したばかりか、さらに戦力を増強した。ウィリアム率いる第三軍団を前進させ、斜面全体で斜線陣を形成し、その後第四軍団残余と第五軍団で受け流した敵兵力を各個撃破するというものだった。
初手の心理戦、その後の迎撃戦略においても、ワイバニア軍はヒーリーの策略に乗せられてしまったのである。
ヒーリーの戦術的思考の柔軟さ、そして、配下の軍団の失敗をも取り込む作戦の独創性にスタンリーは舌を巻いた。
「大したものだ。もう斜線陣を形成している。それに隠し方も実に巧妙です……。これを見抜けるのは、エルンスト・サヴァリッシュか、グレゴール・フォン・ベッケンバウアーくらいでしょう。つくづく末恐ろしいものです」
スタンリーは味方の陣容を見て言った。丘を吹く風が少し生暖かい。これから死闘を演じるのだ。何人か、いや、何百人も死ぬことになる。せめて死ぬ前に感じる風はすがすがしいものであって欲しい。スタンリーは密かに願っていた。
「参謀長、攻撃の号令は?」
「まだまだですよ。アーチボルト君。敵が第一次防御線に来た時が勝負です。攻城兵の準備は?」
「作業は終わっています。しかし……、この作戦。はまったら、さぞかし敵は悔しがるでしょうな」
アーチボルトは少し含み笑いを浮かべた。スタンリーの戦術は壮大、華麗とはあまりにほど遠い陳腐で原始的なものだった。しかし、その効果は原始的であるが故に絶大で、心理的効果も狙ったものだった、そして、巧妙でありながら正道をいくヒーリーの戦術と対比されることで実績面でタワリッシらに劣るヒーリーの声望を上げようとも目論んだのである。マーガレットには「湯浴みの時間を稼ぐ」と言った作戦だったが、それを三倍して余りある効果を持っていたのである。
ふもとでは、ワイバニア第三軍団に続いて第七軍団が前進している。スタンリーは普段誰にも見せない不敵な笑みを浮かべた。
「さて、お楽しみはこれからです……」
フォレスタル軍第四軍団別働隊一一〇〇名は手ぐすねを引いてワイバニア軍を待ち構えていた。