第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第七十七話
ミュセドーラス平野の上空を翡翠の旗をたなびかせた龍騎兵が飛んでいる。制空権はすでに連合軍の手に落ちていた。
フォレスタル軍が閃光轟音弾を使用したことによって、ワイバニア軍の翼竜は戦闘不能に陥った。翼竜専門の医師である龍医だけでは、一万を超える龍の手当は出来ないため、龍騎兵がその対処に回っており、ワイバニア軍はその最精鋭を前線に投入できずにいたのである。
フォレスタル軍龍騎兵がふもとの異常に気づく。自軍に相対しているワイバニア軍二個軍団がゆっくりと前進を始めているのだ。龍騎兵は笛を口にくわえると力の限り息を吐いた。
「!」
戦場に衝撃が走る。動かないはずの敵軍が動き始めたのだ。各部隊の指揮官はそろってふもとのワイバニア軍を見た。
「ばかが!? 奴ら、おれ達の失敗を見ていないのか?」
フォレスタル第三軍団長ウィリアム・バーンズの大声で鼻ちょうちんをふくらませていた参謀長のエミリア・バスカヴィルは目を覚ました。
「え? どれ、どれ?」
瓶底眼鏡を上げた居眠り参謀長は窓の外を見ると、「ふーん」とひと際大きく鼻を鳴らした。
「お前……。本当に嫁の貰い手がなくなるぞ」
「それなら、軍団長にもらってもらうから、いいです」
「ばっ!」
エミリアの突飛な一言に、ウィリアムは真っ赤になった。冗談とも、本気ともつかない参謀長の文句に、顔を赤らめるウィリアムを他所に、エミリアは、戦況分析を続けた。
「それより、こっちの作戦がバレちゃいましたよ。相手は相当賢いです。総司令官の第五軍団と呼吸を合わせないとやられちゃいますよ。総司令官に使者を出してください」
エミリアの声に真剣なものが混じっている。めったなことでは動じないエミリアが動揺しているのだ。ウィリアムは事態の深刻さを悟った。
「マーシャル!」
「はい」
「頼む……」
「了解しました」
次席参謀はそれだけ言うと、ヒーリーのもとへ、文字通り飛んでいった。