第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第七十五話
「第三軍団、前進!」
シラーは決断した。この時期での軍団の攻勢は第三軍団崩壊の危険性を孕んでいる。翻意を促すべく、第三軍団長のアルバート・フォン・ヘッセは軍団長の前に出た。
「軍団長、危険です」
「あぁ、分かっている。だが、今動かなければ、ワイバニア軍全軍が危機に陥るだろう。どれほど愚策かも分かっている。だからこそ、アルバート……。いかせてくれ」
アルバートはもう、何も言わなかった。いや、言えなかった。危険を知りながらあえて前に出ようと言うのだ。シラーの言う通り、ここで敵を攻撃しなければ、後続の予備兵力は混乱の中で壊滅する。自軍の損害を最小限に抑えつつ、敵の攻撃の意志を挫く。綱渡りのような戦いだが、勝たねばならない。アルバートもまた、覚悟を決めた。
「第七軍団はいかがしましょうか?」
「一個軍団ではやりづらい。第七軍団にも連絡を頼む。……先輩にも言い分はあるだろうが、戦ってもらわなければ、二個軍団は各個撃破の好餌にされてしまうだろう。第七軍団への親書はおれが書く。アルバートは第三軍団の戦闘準備を整えよ」
シラーは参謀長に命じると、ペンを取りベティーナへの親書を書きはじめた。ミュセドーラス平野大決戦、その中でも最も危険な戦いが始まろうとしていた。