第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第六十八話
「ところで、軍団長、我々も敵軍に攻撃を与えるべきではないでしょうか。大将軍からの命令も届いておりますし」
メアリはヒーリーに言った。敵第十二軍団が退却した現在、フォレスタルの前方にいるのは、第三、第七軍団の二個軍団のみ。数的にはフォレスタル軍が優位に立っていた。メアリやタワリッシにしてみれば、今こそがワイバニア軍撃滅の好機と見ていたが、ヒーリーの認識は異なっていた。
「我々はまだ動かない」
「どうしてですか?」
メアリの問いにヒーリーは足もとの敵軍団を指差した。
「整然とした隊列だ。彼らは防御を固めている。どうしてだと思う?」
「我々の攻撃に備えている。あるいは、我々への牽制……?」
「おれは後者だと考えている。敵の軍団は、メルキド軍の攻撃に対応しているけれど、比較的積極的に彼らはメルキド軍にあたっている。ワイバニア軍第一軍団が南下しているのを見ると、彼らはどうやら、この龍翼の陣を分断した上で、各個撃破するつもりだ。それまで、おれ達の動きを封じるのが前面のワイバニア軍の作戦なのさ。常道だけど、なかなかどうして、スケールがでかい」
ヒーリーはワイバニア軍の戦略を看破していた。
「ですが、それではやはり兵の絶対数において有利な今こそが、ワイバニア軍を撃破する好機であると、小官は考えます」
メアリの部下の参謀がヒーリーに反論した。ヒーリーは立ち上がると机に広げられた作戦図を指差した。
「今回の戦いの目的はワイバニア軍を殲滅することだ。回復できないほどの損害を与えなければ、次の戦いでおれ達は確実に負ける。いや、今日だって勝敗は怪しいものさ。そのためには敵が予備兵力を投入してくれないと困るんだ」
「困る……?」
「そう、それに、第四軍団は、戦力の再編が済んでいない。今戦ったところで、額面通りの働きはできないさ」
前の戦いでフォレスタル第四軍団は戦力の二割を失っている。重軽傷者を考えると、戦えるものは五〇〇〇名ほどだろう。
「だから、我々が出るのはまだ先。敵が予備兵力を投入したそのときが勝負だ」
ヒーリーは麓を見た。後続の兵力はまだ動き出していない。決戦はまだ先に思われた。