第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第六十六話
「急げ! 敵は待っちゃくれんぞ! 軍団長閣下もな!」
巨象のやぐらの窓から、メルキド軍第四軍団巨兵大隊長シオドアが身を乗り出した。
「そんなこと言っても、こっちは精一杯やってんすよ!」
「うるさい! 口動かす暇があったら、足動かせ! そこのオリオン小隊! もそっと左だ。ぼやぼやすんな!」
シオドアは眼下の石兵乗りをどやしつけると、直近の小隊に命令を発した。戦象の上からは部隊の展開の様子が見てとれた。最前線には三個歩兵大隊が整然と槍を構えて敵に相対し、そのすぐ後方の両翼には、騎兵と弓兵が均等に五個中隊が配置されている。その中央には自分たち、巨兵大隊があたふたともたついている。
歩兵大隊は堅固な防御陣をしいてくれているが、突破されたら一巻の終わりだった。敵はこちらが攻撃態勢を整えるまで、待ってくれる訳はないのだから。
「ふふん……」
ワイバニア軍第六軍団長オリバー・リピッシュは鼻を鳴らした。
「どうやら、敵はかなり大掛かりなことを企んでいるみたいだな。どんな手を出すか見てみたいものだが、そうするわけにもいくまいよ」
リピッシュは指揮下の軍団を密集させると、メルキド軍の隊列に突っ込ませた。弾丸のごとくとたたえられたのはリピッシュのこのときの突撃である。重装歩兵を前面に出し、攻撃力を最前線に集中させたリピッシュの陣形を前に、メルキド軍前線は文字通り粉砕された。
兵士達が散り散りになり、逃げ惑う。
「まずい……」
崩れた陣形を見たアリーは舌打ちした。味方の攻撃準備はまだ整っていない。今、歩兵の壁を突破されたら、第四軍団は壊滅だ。アリーの背筋に冷たいものが走った。
アリーの軍服の袖を少女が引っ張った。少女は忠臣をかがませると、耳打ちした。
「かしこまりました。お嬢様。突破された部隊は各隊長の判断で左右に展開。騎兵、弓兵隊も前進せよ。巨兵大隊は戦象を前面に出すように伝えよ!」
アリーはすぐさま指示を出した。アルマダ最年少の軍団長は顔を朱に染め頷いた。ディサリータの策は中、長距離支援用石兵「ヘラクレス」に装備された巨大弓によって敵兵力を分断し、騎兵、弓兵、歩兵で包囲殲滅するものだった。つまり、敵を包囲することに作戦の主目的があるのであって、石兵を運用することには対して重点が置かれていないのである。敵軍の突撃をディサリータは敵を包囲する好機と考えたのだ。