第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第六十二話
メルキド軍第二陣は巨兵大隊を中央に、重装歩兵大隊を両翼に配して敵軍の攻撃を受け止めようとしていた。巨象の巨体と、石兵の装甲は敵の突撃を真正面から防ぎきる力を有している。マレーネらワイバニア第二軍団はメルキド軍の強固な防御陣を前にその足を止めた。
指揮能力を備えた大型馬車に、マレーネは司令部を移していた。馬上からの指揮では全軍を見渡すことは出来ない。馬車の屋根に取り付けられた小さな櫓の上で、マレーネは指揮を執っていた。
「アルマダの掟を思い出しなさい。歩兵は巨兵よりも強いのよ。先鋒の騎兵大隊を下げ、第一、第二歩兵大隊を前に出しなさい。機動戦を仕掛けるのよ」
彼女は即座に歩兵による巨兵の各個撃破攻撃に方針を転換した。集団であたれば、巨兵など恐れるほどのものではない。メルキド軍との戦訓から、彼女はそれを学んでいた。
「予想通りだな。……それでは、作戦の第二段階にかかるとしよう」
ラシアンは鼻を鳴らした。石兵乗りとして勇名を馳せたラシアン・フェイルード以上に巨兵運用に通じた指揮官はいない。彼は、手持ちの弓兵大隊を中隊単位に分け、さらにそのうち五個中隊を巨兵大隊の援護にまわした。それだけならば、弓兵は二個歩兵大隊に勝てない。ラシアンは弓兵を分隊単位に分割した上で、巨兵の陰から敵歩兵を射かけたのである。
「わぁぁぁ!」
「この野郎っ! 剣が、斧が通じない!」
「退け! 退くんだ!」
戦場の至る所で、ワイバニア兵の悲鳴が聞こえる。矢に追い立てられ、誘い出された場所には巨人の群れがいる。自分たちの三倍はあろうかという背丈、体を守る分厚い鉄の甲冑は矢も剣も通さない。角を生やした鬼を連想させる石兵は、容赦なく敵の兵に刃を、槌を突き立てる。いかに強く勇敢な戦士が数多くいようとも、絶対的な力の前にはただ無力だった。
「何と言うこと……。予想以上ね」
マレーネはラシアンの用兵に舌を巻いた。元々、緒戦において龍騎兵大隊が全滅に等しい損害を受けている上に、フランシスとの戦闘での損害もあいまって、マレーネが率いる兵力は完全時の八割強に留まっている。故に防戦ではなく攻勢に出ることで、敵戦力の減少を狙ったのだが、ラシアンの実力が彼女の想定を上回っていた。