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第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第六十話

ミュセドーラス平野の山々に空を裂く鏑矢の音が何度もこだまする。「全軍攻撃開始」の合図である。フォレスタル軍は大きく戦力を削がれたが、それ以上にワイバニア軍に対して打撃を与えている。敵が予備兵力を投入していない今こそが、攻撃の好機だった。


「巨兵大隊、重装歩兵大隊を前に出し前進!」


鶴翼の陣、その中央部に位置するメルキド軍第五軍団長ローサ・ロッサが馬車の屋根の上で指揮杖を振り上げた。彼女率いるメルキド軍一万人の精兵達がゆっくり、そして整然とした隊列を組んで斜面をおりていく。


「待ちに待った時が来たと言うことですね。軍団長」


傍らに立つ副官のプレヴューが声をかける。やせ細った体に青白い肌。頑健で、浅黒い肌を持つメルキド人とは正反対の姿をする彼であったが、その弱々しい身体とは裏腹に、一個大隊にも勝ると言われるほどの能力の持ち主だった。幼少の頃から勉学にのみいそしんだ彼は、国庫の図書館の半数の蔵書を読破し、そのほとんどを暗唱することが出来た。知識量と、記憶力だけでいうならば、歩く軍事図書館と言われた第四軍団軍師、アリー・ゼファーの上をいっていた。


「実戦は二年ぶりだからな。腕が鳴る」


指揮杖を小脇に抱えたローサは指の関節を鳴らした。肩をむき出しにした彼女の鎧からは鍛え抜かれた筋肉が見える。指揮官としてではなく、戦士としても優れている証拠だった。


ローサ・ロッサは当年二十九歳になる若き女将である。勇猛果敢なメルキド軍の中でも知勇兼備の名将と知られている。彼女に比すれば、マーガレット、アンジェラは勇に、マレーネ、ベティーナは知に傾いていると言われている。アルマダの女将の中ではマレーネと互角に戦える唯一の存在だった。


背も高く、均整のとれた身体に、ショートボブの黒髪。堂々とした戦いぶりはメルキドの女子のあこがれであり、彼女を慕う国民からは連日花束が贈られているという。


彼女率いる第五軍団はまもなくワイバニア第八軍団をその射程に収めようとしていた。


「相手はゲオルグ・ヒッパー。老練な男だが、勝機は十分すぎるほどある。恐れるな。全軍、そのままの速度で突進せよ」


伝令兵はローサに一礼すると、馬車の屋根の指揮所に設置された陣太鼓を盛大に打ち鳴らした。太鼓に応えるように戦象達は猛り、兵士達の士気を鼓舞する。


「第二陣、第一から第三歩兵大隊の歩みが遅い。少し速度をあげろ」


「はい」


陣形のわずかな空白を察知したプレヴューがすかさず指示を出す。ローサが傍らの副官を見ると、プレヴューは頭を下げた。


「申し訳ありません、僭越なマネをいたしました」


「いや、いい。わたしも同じことを考えていたところだ。フォレスタル軍の愚もある。穴を空けたと感じれば、気がついた方が対処する方が良い」


先だってのフォレスタル第四軍団の敗因は陣形に大きな穴をつくり、自壊してしまったことによる。中位軍団長とはいえ、相手はヴィクターとは比較にならない経験を持つ強敵である。隙を見せる訳にはいかなかった。

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