第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第四十九話
先発したスタンリーは第五軍団騎兵大隊が陣地に降り立った。斜面の中、整然と方陣を敷いているのが見える。指揮官の統率力の高さを物語っていた。
「第四軍団のスタンリー・ホワイトです。指揮官にお会いしたい」
近づく兵士達にスタンリーは言った。だが、指揮官は上空からの来訪者に気づいていたようだ。ざわめく兵士達をかき分けて、ひと際屈強そうな男が姿を現した。
顔は岩石を思わせるような真四角で、太い腕。ほんのひとはたきでもすれば、スタンリーは枯れ木のようにぽきりと折れてしまうだろう。騎兵達の小さな嘲笑が聞こえる。大男はスタンリーの前に立つと、背筋を伸ばし敬礼をした。
「第五軍団、第一騎兵大隊長。チェスター・エイプルトンであります! スタンリー・ホワイト隊長に再びお会いすることが出来て、光栄であります」
「お久しぶりです、エイプルトン君。ご壮健で何よりです。君と一緒に戦ったのは……」
「はい! 十三年前の北方戦線です。あのとき、自分は新兵で、隊長の足を引っ張ってばかりでした」
十年ぶりの再会を二人は喜んだ。当時のスタンリーとチェスターとの間には天地ほどの差があり、チェスターはスタンリーが自分のことなど覚えているはずがないと思っていたが、スタンリーはかつての部下を詳細に覚えていた。彼の世代ではスタンリーは伝説に等しい存在である。彼に覚えてもらっていたことは、チェスターの胸を熱くさせた。
「エイプルトン君、いや、エイプルトン隊長。今は世間話をしている時間はないのです。第四軍団の件はご存知ですか?」
「はい、苦境に立たされているのは承知しております」
「そこで総司令官より、わたしに第一騎兵大隊を率いて第四軍団を救出せよとの命令をいただいております」
スタンリーはヒーリーから託された命令書をチェスターに見せた。「スタンリー・ホワイトを指揮官とし、第一騎兵大隊はただちに第四軍団を救出せよ」ヒーリーの肉筆で命令が書かれていた。
「わかりました。再びホワイト隊長のもとで戦えるとは光栄です。第一騎兵大隊はホワイト隊長の手足となって戦います」
チェスターはごつい顔に宝石の輝きをきらめかせて言った。この二人で戦うだけならば、問題はなかっただろう。しかし、一個大隊を掌握することに関しては話は別だった。敗北しつつある第四軍団の人間がいきなり上に立つと言うのである。隊長が許しても、他の兵士達がそれを良しとするとは限らなかったのである。チェスターの副官が大隊長とスタンリーに真っ向から反発した。
「お待ちください、大隊長。わたしは反対です。総司令官の命令とはいえ、このような訳も分からぬ男に従うなど承服出来ません!」
「失礼だぞ、ジャクソン!」
チェスターは副官を制止したが、止まらない。彼は自分自身の才覚と技量に自信を持っていたし、いきなり現れた上司の命令を聞くなど、彼には許されないことだった。それは大隊の多くが同じようなことを考えたにちがいない。命を賭けた絆で結ばれた集団はある意味で排他的だった。仲間と認めない者の下につくのは、彼らのプライドが許さなかったのだ。