第六章 ミュセドーラス平野大決戦! 第四十七話
「始まりましたわ」
戦いが始まったことを確認したマーガレットは馬車の屋根の上で戦況を確認した。騎兵大隊が敵の重装歩兵大隊に突っ込み、その前線を浸食しつつある。一刻も早く敵陣突破を果たしたいマーガレットは第二陣の投入をいち早く決断した。
「第三機動歩兵大隊を第一騎兵大隊の援護に回しなさい。騎兵が切り開いた道をさらに広げるのです」
「お待ちください、軍団長。それでは陣形に穴を生じさせることになります!」
マーガレットの後ろに控えた新参謀長のアビー・マクファーデンが彼女に反対した。マーガレットは上品な笑みを浮かべると、アビーの耳に優しく触れた。
「大丈夫よ、アビー。他の大隊が速やかに移動すれば問題ないわ。後衛に配置した第一弓兵大隊を使いましょう。それで大丈夫」
「は、はい」
アビーはマーガレットの考えを了承した。アビーは今年二十六歳の参謀で後ろでまとめた三つ編みの赤毛とそばかすが特徴の女性士官だった。
士官学校ではメアリ、ヒーリー、レイと同期と言うことになるが成績は彼らに及ぶべくもなかった。彼女は戦闘に対して才能を発揮する人間ではなく、後方において補給や事務に対して才能を発揮する人間だったのである。
それにもかかわらず、マーガレットは第四軍団において経理、総務を担当していた彼女をマーガレットはいきなり次席参謀に引き抜いたのである。マーガレットが何故、このような行動に出たのか諸説あるが、よくわかっていない。
だが、生来生真面目な性格であった彼女は自分の才能以上の能力を三年以上にわたって発揮し続けた。これにはむろん、参謀長のスタンリーらのサポートがあってこそのものであり、彼女もそれを理解していた。
しかし、新参謀長という重責は彼女の能力を才能以上の限界すらはるかに超えるものであり、一万荷及ぶ強大な兵力を彼女は掌握しきれずにいたのである。
アビーは伝令兵にマーガレットの命令を伝えた。
(大丈夫かな……)
アビーの中で負の予感がよぎった。この十数分後、現実となって彼女に返ってくるのである。